いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2008年 10月 25日

デ・ヴィートのHMV最初期LP

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先日、「HMVの最後期SPと最初期LPの音を聴いてみたい」と書きましたが、その次の日、タイミング良く、ジョコンダ・デ・ヴィートのメンデルスゾーンの協奏曲(1951年録音)が某オークションに出ていましたので、ここで会ったが百年目と、落札してしまいました。
コンディションはVG++ですから、まあ“並”でしょうか。

この演奏は昔、東芝のGR盤でもっていましたが、聴き比べをするには、やはりオリジナル・プレスじゃないとね、と勝手な理屈をつけて、とうとう初期LPに手を出してしまいました。
もっとも、シュタルケルのように、スタンパーで音が違うといわれると、どうしようもありませんが。

それで、HMVの最初期LPは、どんなイコライジング・カーブで録音されたのだろうと、調べて行くうちに、The British Libraryから2008年9月に出た、MANUAL OF ANALOGUE SOUND RESTORATION TECHNIQUESという文献[1]に出会いました。
著者のPeter Copelandは、the British Library Sound Archiveのマネージャのようです。
333ページあり、全部を読んだわけではありませんが、関係あるところを抜粋して紹介します。

まず、EMIの初期LPの節、Early EMI long-playing and 45 r.p.m. records中に、下記の記述を見つけました。

Some early microgroove discs had properties reminiscent of 1930s 78s, with colouration in the mid-HF and treble above about 6kHz attenuated; but these difficulties were solved within a year or so.

いくつかの初期マイクログルーブ・レコードは、1930年代の78回転レコードを思い出させる音質を持っているようです。
これはボクの仮説、
HMVは、SPからLPの移行期に音質の連続性を保持しようとした。
を裏付けるものだと思います。

They had Blumlein characteristics (in this case, “Blumlein 500Hz” - 318 microseconds), even though they were not intended for clockwork gramophones!

HMVの極く初期にカッティングされたLPは、SP時代とよく似た、ロールオフ:フラット、ターンオーバー:500Hzのイコライザー・カーブを持っていたようです。 Blumleinとは、1930年当時、ウエスタン・エレクトリックの高額なロイヤリティの支払いを回避するため、EMIが自前で開発した録音システムです。

このようなイコライジング・カーブでカッティングされたLPのマトリクス一覧が下記です。ただしテイク1と2に限られます。

I hope the following table will help you identify the last Blumlein versions by matrix number, but please remember most must be approximate, and can only apply to Take Ones and Twos.

HIS MASTER’S VOICE
LPs: (10-inch and 12-inch) Between 2XEA213 and 2XEA392, and at 0XAV145.
EPs: 7TEA 19, 7TAV 28
SPs: Between 7XBA14 and 7XBA21, and at 7XCS 23, 7XLA 2, 7XRA 30, 7XSB 6, 7XVH 70
SPs: 7XEA688, 7XAV227 (Both series then jump to 1000)
78s: Between 2EA17501 and 0EA17576

ここでSPsとは、7インチの33回転盤の意味です。
また、ここでいうテイクとは、SP時代のような演奏のやり直しではなく、マスターテープから何回目にラッカー盤にカッティングしたかと言う番号です。
なお、テープ録音の78回転盤は、テイクナンバーの後に何らかの記号がついているようです。

Tape was often used for mastering purposes from 1948 onwards, but a great many commercial 78rpm releases were made from direct-cut discs recorded in parallel. From about 1951 tape-to-disc transfers became normal for 78s (they can usually be identified by a letter after the take-number).

これらのSPライクな音のする(であろう)LPを一度でいいから聴いてみたいものです。

それでは、このBlumleinカーブはいつまで用いられたのでしょうか?
下記のように、いつ終わったか、よりもいつ始まったかを見つける方が簡単のようです。この著者は同じ演奏のSP, LP, EPを何十組も聴き比べた結果、それは1953年7月17日、あるいはその2,3日後だとしています。

It is always easier to say when something started than when it stopped, and the same goes for this characteristic.
I had to compare dozens of 78s with LPs and 45s of the same performances, after which I could say with some confidence that all three changed at about the same time. The critical date was 17th July 1953 or a few days later (Ref. 28), after which comparisons are consistent with what later became the two 1955 International Standards (section 6.7).

その後は、International Standardsになったということですが、これは何かとsection 6.7を見てみると、

For international standard microgroove, the constant-velocity section ran only from 500Hz to 2120Hz, so more of the frequency range approached constant-amplitude, and surface noise was further diminished.

これはRIAAのことです。この文献を見る限り、HMVは1953年に、BlumleinからRIAAに移行したようです。
ここで気をつけなければいけないのは、1953年以前に録音されたレコードでも、テイク番号の大きな、つまり1953年以降にリ・カッティングされたレコードは、RIAAの可能性が大きいということです。

ここで改めて、先日入手したBLP1008の刻印を見てみると、

    9時          6時        3時
A面  1,2(1の下に2)  0XEA 176-7N    P
B面  1          0XEA 177-7N  レーベルの下に大半隠れていて不明

これらの意味については、まずビートルズのレコード・コレクターの掲示板[2]を参考にして、

まず、3時の位置にある文字は、マザーから取ったスタンパー番号で、1234567890の数字のかわりに、GRAMOPHLTDのアルファベットの文字を対応させている。したがって、Pは6番目のスタンパー。

次に、9時の位置にある数字は、マスターから取ったマザーの番号で、B面は1番目のマザー。A面は、よくわからないが、2番目のマザーではないか、上の1の数字の意味は不明。

6時のマトリクスの意味については、LPレコード愛好会の掲示板[3]で質問したところ、長野Sさんからご教示を得ることができ、大分わかってきました。
それ以降わかったことも含めて、6時のマトリクスの読み方をまとめると、

先頭の数字はサイズで、0:10インチ、2:12インチ 、7:7インチ
次の1文字は録音の種類で、X:モノラル、Y:ステレオ、 Z:擬似ステレオ、以上は33回転、T:45回転
次の2文字は録音場所で、アラン・ケリー[4]によると、1934年からのSPでは下表になる。LP時代も踏襲されたと思われる。
次の数字はマトリクス番号、ただしあらかじめ振られた番号なので、必ずしも時系列順ではない。
ハイフンの後の数字はテイク番号、ただし、演奏の番号ではなく、マスター・テープからラッカー盤にカッティングした番号。 
最後の文字の意味は不明。N, U, G, S等があるが、Nがもっとも多い。Nは1964年までのモノラル盤のみにつく。

ここで気になるのは、上の7Nがいつごろカッティングされたか、ということです。

If a pair of masters failed, it would take three to eight weeks to get them cut again. Most previously issued Blumlein versions were later remastered to conform to International Standards,

マスターが壊れると、次にカッティングできるのは3週間から8週間後だったようです。 予定が目白押しだったのでしょう。
7回目のマスターとなると、録音から相当の時間が経っていると思われます。 もっとも1回目から6回目まではカッティングに不慣れで失敗したという可能性もありますが。
1953年7月以降なら、イコライジング・カーブはRIAAということになりますが、果たして・・・?


0AA / 2AA Sydney
0AB / 2AB West Africa
0AC / 2AC Egypt
0AF / 2AF East Africa
0AS / 2AS South Africa
0AT / 2AT Overseas
0BA / 2BA Milan
0BF / 2BF
0CS / 2CS Copenhagen
0DK / 2DK Budapest
0EA/ 2EA London
0EB / 2EB London (private)
0EF / 2EF London (Foreign interests issues)
0EL / 2EL Waterford, Ireland
0ER / 2ER London
0EW / 2EW London, American Forces
0FA / 2FA
0GA / 2GA Athens
0GF / 2GF London (Gracie Fields)
0HB / 2HB ?Teheran
0HC / 2HC Prague
0HD / 2HD Bucarest
0HL / 2HL Czechoslovakia, recorded Vienna
0HR / 2HR Bucarest
0KA / 2KA Barcelona
0LA / 2LA Paris
0LB / 2LB Brussels
0NA / 2NA Scandinavia
0NX / 2NX (belongs to previous phase)
0PA / 2PA (belongs to previous phase)
0PC / 2PC Portugal
0PD / 2PD (belongs to previous phase)
0PF / 2PF (belongs to previous phase)
0PG / 2PG (belongs to previous phase)
0RA / 2RA Berlin
0SB / 2SB Stockholm
0SW / 2SW Paris – “Swing” records
0TB / 2TB Istamboul
0VH / 2VH Vienna
0WX / 2WX (belongs to previous phase)
0ZA / 2ZA Switzerland


References
[1] http://www.bl.uk/reshelp/findhelprestype/sound/anaudio/manual.html
[2] http://z10.invisionfree.com/BeatlesCollecting/index.php?showtopic=81&view=getnewpost
[3] http://enatsu33.sakura.ne.jp/
[4] Alan Kelly, "STRUCTURE OF THE GRAMOPHONE COMPANY AND ITS OUTPUT, HMV and ZONOPHONE, 1898 to 1954" CD-ROM (2000)
[PR]

by ibotarow | 2008-10-25 11:00 | ヴァイオリン_電気録音 | Trackback | Comments(2)
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Commented by アノニマ at 2008-12-06 08:50 x
RIAAカーブに統一されたのは1955年以降とされていますが、HMVでは1953年7月(ということはこの規格の制定当時)からRIAAだったんですね。
ところで、手元にあるマッキントッシュC-8のイコライザー適合表では「RCA VICTOR (H.M.V) NEW」と「RCA VICTOR (OLD)」の記載しかなくて、その境目の年が分からなかったのですが、これではっきりしました。有難うございました。
ところで、その表の「RCA VICTOR (OLD)」の欄を見ると、ターンオーバー:800Hz、ロールオフ:-10dBと指定されています。この部分には「HMV」の表記はありませんが、同じカーブを用いていた可能性もありそうな気がするのですが?
Commented by ibotarow at 2008-12-07 15:59
初期LPのイコライジング・カーブについては、諸説あって、ここに書いたのは、あくまで文献[1]に基づけば、というふうにご理解ください。

HMVがLPを発売したのは、1951年か52年だったと思いますが、それ以前の1949年7月あたりから、HMVは国外用にカッティングを行っていたようです。それがUS ColumbiaとRCA Victor用だったかどうかはさだかでありませんが。
この文献には、そのカーブはBlumlein 500Hzだったと書いてあるのですが、これはちょっと考え難くて、やはりそれぞれの会社のカーブで行ったのではないでしょうか。
同時にHMVが、自社のLPにそれらのカーブを用いていた可能j性もありでしょうね。

Old RCAについては、
http://www.ann.hi-ho.ne.jp/aria/amp/EQ-curve.htm
に興味深い解説があります。
それによると、ターンオーバーのカットオフを800Hzにとると、1kHzで約2dBの上昇になるようで、これをRIAAその他のカーブのように、1kHzで0dBとなるように、Old RCA全体を2dB平行移動すると、ほぼRIAAと等しくなる、というのです。Old RCAがRIAAの元となったことを考えると不思議なことでは無いのでは、といっています。


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