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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2022年 02月 27日

パッティG&Tの回転数

パッティG&Tの回転数_d0090784_09081596.jpg

Adelina Patti (1843-1919)のディスコグラフィはまだ作っていなかったので、ケリー[1,2]を基に作り、それに、C. Zwargの"Speeds & Keys"[3]から、キー、ピッチ(Hz)、回転数(rpm)のデータを拾って【 】内に記入すると、下記のようになりました。

Adelina Patti G&T Recordings

2-12 Dec. 1905, Crag-y-Nos Castle, Wales (Piano accompaniments by LANDON RONALD)
[537f] 03051 Le Nozze di Figaro: Voi che sapete (Mozart), in Italian【B♭/o, 452, 74.9】
[538f] 03052 Pur dicesti, o bocca bella (Lotti), in Italian 【E, 452, 75.1】
[539f] 03053 Home sweet home (Bishop) 95029 【F/o, 452, 75.1】
[540f] 03054 The old folks at home (Foster) 95033 【E♭, 452, 75.1】
[541f] 03055 Don Giovanni: Batti batti (Mozart), in Italian【E♭/-2, 452, 75.5】
[542f] unpubl. Faust: Air des bijoux (Gounod), in French【E♭/-1, 452, 75.0】
[543f] 03056 do 【E♭/-1, 1452, 75.1】
[544f] unpubl. Il bacio (Arditi), in Italian 【D♭, 452, 75.3】
[545f] 03057 Kathleen Mavourneen (Crouch) 【F, 452, 74.7】
[546f] unpubl. The last rose of summer (Moore) 【F/o, 452, 75.5】
[547f] unpubl. Ave Maria (Bach-Gounod), in Latin with violin obbligato【F, 452, 75.3】
[548f] 03058 La serenata (Tosti), in Italian 【F, 452, 75.1】
[549f] 03059 Robin Adair (Keppel) 【A, 452, 75.3】
[550f] unpubl. Home sweet home (Bishop) 【F/o, 452, 74.4】
[551f] 03060 Si vous n’aviez rien a me dire (Rothschild), in French【D♭, 452, 75.3】
[552f] 03061 Coming through the rye (trad) 【A, 452, 74.8】
[553f] 03062 The last rose of summer (Moore) 【E/-1, 452, 75.2】

[555f] unpubl. The banks of Allan Water (trad) 【B♭, 452, 75.9】
[556f] 03063 On parting (Patti) 【E♭, 452, 76.1】
[557f] 03064 ’Twas within a mile of Edinboro’ Town (Hook) 95034【G♭, 452, 75.9】
[nm] Private message to Baron Cedarström

19-25 June 1906, Crag-y-Nos Castle, Wales (piano ALFREDO BARILI)
[676c] 03078 Kathleen Mavourneen (Crouch) 【F, 452, 73.7】
[677c] 03079 La serenata (Tosti), in Italian 【F, 452, 74.7】
[678c] 03080 ’Twas within a mile of Edinboro Town (Hook)【G, 452, 74.4】
[679c] (03081) Home sweet home (Bishop) not used
   [Check Register that 03081 was not in fact allocated to 680c - same title]
[681c] 03082 Norma: Casta diva (Bellini), in Italian 【E♭, 452, 75.8】
[682c] 03083 Mignon: Connais-tu le pays (Thomas), in French VB53【D♭, 452, 74.4】
[683c] 03084 La Sonnambula: Ah non credea (Bellini),in Italian【Gm, 452, 74.0】
[684c] unpubl. La calasera (Yradier), in Spanish
[684½c] 03085 do VB40 【D♭/o, 452, 76.0】

ピッチは、[3]では当時のG&Tロンドンスタジオと同じく、すべてA=452としていますが、Nさんにご紹介いただいた、B. Haynesの"The story of 'A'" [4]によると、
「有名なソプラノ歌手アデリナ・パッティは、1879年、コヴェント・ガーデンで歌うことを拒否した。そのオーケストラのピッチがA=455に達していたためである。そこで、オーケストラはフレンチピッチまで下げることになった。」
前回のメルバ同様、パッティもフレンチピッチA=435がお好みだったようです。この話を聞くと、録音が行われた彼女の居城のピアノがA=452に調律されていたとは俄かには信じがたいですが、後述のように、キーを上げて歌った可能性もあります。

また、Marstonの復刻CD[5]のNote From The Producersによると、
「この時代のピアノは、一般的にA = 435 Hzでチューニングされた。」
大雑把な言い方ですが、MarstonもA=435説のようです。

続いて、回転数については、
「これらの録音に共通する技術的欠陥は、最初から最後に向かってピッチが徐々に上昇することである。復刻する際には、ピッチを注意深くモニターし、それに応じて再生スピードを下げる必要がある。」
レコードの内外周でピッチが変化する現象は、今までサラサーテ等で経験したことがありますが、これを考慮すると解析が面倒になるので、拙ブログでは今のところ、平均値で対応することにしています。

「1905年のディスクの開始スピードは72.5から74.5 rpmまでばらついている。」
「1906年の最初の3つの録音は72.5 rpmの開始スピードで再生されるが、残りの4つのディスクは、約73.4 rpmの開始スピードで再生されなければならない。」
これらの値は上のリストより大体2,3割低いので、ピッチに換算するとA=440前後になるようです。

さらに、キーについての言及があり、
「20年近くこれらのレコードを精査してきたが、それでもこれらのディスクの正確なキーを決めることができないことにとまどっている。このミステリーを明確に解決するリソースがないため、これらを低キーと高キーの両方で復刻する選択をした。」
その結果、[5]では、[681c~684½c]の4面について、キーをそれぞれ半音上げたRemaster版も収録されています。ちなみに、原調のままピッチを半音上げたとすると、A=435は約460となり[3]に近くなります。


難しい話はさておいて、上のリストのうち、アントニオ・ロッティ(1667-1740)の「あなたは言った、美しい唇よ」、
[538f] Pur dicesti, o bocca bella (Lotti), in Italian 【E, 452, 75.1】
の無銘ビニールプレス盤(レーベル上にIRCC-33Aの陽刻あり[6])について、とりあえず【 】内の回転数で再生し、Marstonの復刻CDと比較してみます。

まず、全体の平均スペクトルを求めると、

パッティG&Tの回転数_d0090784_15491848.jpg

高い方は10 dBほど差がありますが、低い方はほとんど一致しています。相対的に見ると、CDはレコードより低域を上げているようです。
ピッチを見るために300~600 Hzの範囲をリニアスケールで表示すると、

パッティG&Tの回転数_d0090784_15491866.jpg

A4に相当するピークは幅があってわかりにくいですが、レコードは450 Hz付近に中心があるのに対し、CDは440 Hzよりちょっと下にあるように見えます。

一方、[4, 5]のA=435説も無視できないので、約72 rpmで再生し、上と同様、復刻CDと平均スペクトルを比較してみると、

パッティG&Tの回転数_d0090784_15491897.jpg

各ピークの位置は、上より揃ってきました。
ピッチを見るために300~600 Hzの範囲をリニアスケールで表示すると、

パッティG&Tの回転数_d0090784_15491869.jpg

今度はCDより少し低くなりました。
430~440 Hz付近に分布するA4相当のピークは位置を特定しづらいので、全音上のB4の単峰性ピークからA4に換算すると、
Marston CD: 438 Hz
Vinyl_72.3: 435 Hz
となりました。

という訳で、A=452とA=435では、音程で言うと半音の2/3ほどの違いがあって、大差ないとは言えないし、どちらが正しいかの判断もできないので、悩める?Marstonに倣って、両方のピッチで再生した2種類の音源をアップすることにします。

[538f] Pur dicesti, o bocca bella (Lotti)_75

[538f] Pur dicesti, o bocca bella (Lotti)_72


References
[1] Alan Kelly, "Matrix Series Suffix-c, Twelve Inch Wax Process Recordings made by F W Gaisberg et al (1903 to 1919)", MAT102 (1995)
[2] Alan Kelly, "Matrix Series Suffix-f, Twelve Inch Wax Process Recordings made by William Conrad Gaisberg et al (1903 to 1919)", MAT103 (1994)
[3] Chris Zwarg, "Speeds & Keys Vol. I Gramophone Co. (1898-1921)", Truesound Transfers (Berlin, 2018)
[4] Bruce Haynes, "A history of performing pitch: The story of 'A'" (The Scarecrow Press, Lanham, 2002) p. 357
[5] The Complete Adelina Patti and Victor Maurel, Marston 52011-2 (1998)
[6] The Record Collector, IRCC Discography



# by ibotarow | 2022-02-27 08:36 | 女声_ラッパ吹き込み | Comments(3)