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2018年 10月 08日

クーベリックG&T補遺

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最近出た、"Speeds & Keys"[1]を見ると、1902年頃のロンドンG&Tのピッチは、A=452 Hzを採用しています。
クーベリックのG&Tは、

1902.10.26, Recordings made in London
[2700W] private Romance (d’Ambrosio)【 D, 452, 68.8 】
[2701 W2] 7956 Serenade No. 1 in A (Drdla) 【 A, 452, 69.4 (67.4) 】
[2703 2W] 7957 Lucia di Lammermoor: Sextetto (Donizetti-St Lubin) 【 D, 452, 71.0 (68.8) 】
[2704W] private Faust: Fantasia (Gounod) 【 F, 452, 71.5 】

1903.11.21
[4601b] 7967 Carmen: Habanera (Bizet-Sarasate)  【 D, 452, 74.2 (72.2) 】
[4602b] 7968 Carmen Suite: Chanson bohème (Bizet-Sarasate) 【 E, 452, 74.5 (72.1) 】
[4605b] 7961 Theme & Pizzicato - Nel cor non più mi sento (Paisello-Paganini) 【 G, 452, 75.3 (68.6) 】

1904.10.20
[401c] 03033 Ave Maria (Bach-Gounod) with Nellie Melba (s) 【 G, 435, 77.1 (68.8) 】
[408c] 07901 La ronde des lutins (Bazzini) 【 E, 435, 78.5 (79.8) 】

【】内の値は、左から、キー、ピッチ(Hz)、回転数(rpm)です。
また、()内の値は、前報"クーベリックG&T"で、A=440としたときの推定結果で、だいぶ違います。

特に、メルバとクーベリックのアヴェマリア03033 [401c]は、標準ピッチ(pitch standard)も違いますが、キーが違います。

Musical Key: G (F)
Pitch Standard: 435 Hz (440)
RPM Speed: 77.1 rpm (68.8)

そういえば、メルバG&Tにはキーが書いてあるのもあったなと、拙ブログ"メルバとクーベリックのアヴェ・マリア"のレーベル写真を見ると、上に再掲したように、
Key G
でした。この頃はレーベルの部分だけ丁寧に切り取っていたんですねえ。
それはともかく、前報"クーベリックG&T"で見た楽譜がたまたまヘ長調だったのですが、これはやり直しですね。

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そこで、ト長調の楽譜[2]を見ると、出だしの音はBです。

もし、A4=435 Hzを採用したとすると、B4は、
B4=435*1.122462=488.271 Hz 
です。

78 rpm再生時の冒頭の音の周波数は、前報"クーベリックG&T"のFig. 14を見ると、
498.6282 Hz
ですが、外周と内周の回転数差があるかもしれないことを考慮して、平均スペクトルから求めた同じ音程の音は、
493.2449 Hz
となります。これを
488.271 Hz 
にする回転数は、
78*488.271/493.2449=77.2 rpm 
となり、[1]の値とほぼ等しくなります。

次の問題は、A=435が妥当かどうか、です。
しかしながら、当時のピッチに関する情報はほとんどありません。

そこで、ピッチ・スタンダードの根拠を[1]の著者にメールで聞いてみたところ、2回にわたって長文の返事を貰いました。
その概要を記します。

まず、A=452について、
・ピッチ・スタンダードは、数百のケースについて試行錯誤によって決めた。

・リファレンスとして用いたのは、調律の範囲が非常に狭い軍楽隊の金管(数Hz変えるには、新しい楽器の購入が必要、あるいは調律の不可能なチューブラー・チャイム、グロッケンシュピール等である。

・時には不協和音が生ずることもある。
例えば初期のロンドンのG&Tでは A=452 "Old Philharmonic Pitch"で調律されたピアノや楽団に対して、French standard A=435に調律されたチャイムが聞こえる。

・しかし1907年に、スタジオ・オーケストラの楽器を"New Philharmonic" Pitch A=439にアップデートしたので、このチャイムはよりスムーズに合うようになった。

次に、A=435について、
・G&Tロンドン・スタジオのピアノ・ピッチは、 the 19th century British standard ("Philharmonic Pitch") A = 452 Hzであった。

・ガイスベルグが語った逸話によると、メルバは、1904年10月の録音の際に、ピアノを 自身のコンサートで使っているFrench pitch A = 435に調律し直すよう主張した。

・軍楽隊だけは20年にわたって、A = 452 を維持した。
たとえば1905年のメルバの伴奏をしたColdstream Guardsは、彼女の思い通りにはならなかった。
それで、レーベルに"Key E-flat"の表記がある"Come back to Erin" はA = 452で、同じ日のランドン・ロナルド伴奏の同じキーの"Old Folks at home" A=435と全く違う。

A=435の妥当性ですが、まあ、ガイスベルグがそう言っていると書かれると、そうかと納得せざるを得ませんね。
たしかに、1907年のロンドン録音のリストを見ると、オーケストラはA=439ですが、ピアノはA=435になっています。これはメルバの置き土産?でしょうか。

ちなみに、1905年の2曲は、
1905.09.04 London
[7202½b] 3616 Come back to Erin (Claribel) 【 E♭, 452, 74.3 】
[7203b] 3617 Old folks at home (Foster) 【 E♭, 435, 74.5 】
で、マトリクス番号が連続しています。
絶対音感のあるメルバにとって、さぞ気持ち悪かったことでしょう。

その他、"Speeds & Keys"[1]には、以下のさまざまなピッチ・スタンダードが列挙されていました。

430 Hz; Italian Military Band Pitch

432 Hz; recommended for vocal music by Verdi

435 Hz; Diapason normal: Nominal French standard

439 Hz; New Philharmonic Pitch

440 Hz; Modern Standard Pitch

443 Hz; Prussian Military Band Pitch

446 Hz; Pleyel's 19th century piano pitch

447 Hz; Mahler's preferred pitch for Vienna Opera

452 Hz; Old Philharmonic Pitch, British Military Band Pitch

461 Hz; Austo-Hungarian Military Band Pitch, High Viennese Pitch

また、この本のIntroductionにもたいへん興味深いことが書かれています。プレビュー版[3]で読めますので、回転数に関心のある方は、ぜひご一読を。

References
[1] Chris Zwarg, "Speeds & Keys Vol. I Gramophone Co. (1898-1921)", Truesound Transfers (Berlin, 2018)
[2] https://mahoroba.logical-arts.jp/score/download.php?id=128
[3] https://www.truesoundtransfers.de/SpeedsKeys1Preview.pdf

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# by ibotarow | 2018-10-08 08:05 | 女声_ラッパ吹き込み | Trackback | Comments(0)