人気ブログランキング | 話題のタグを見る

いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

ibotarow.exblog.jp
ブログトップ
2009年 11月 08日

ニノン・ヴァランのパテ・アール

ニノン・ヴァランのパテ・アール_d0090784_10514372.jpg

先のキュルティで、パテの電気録音切り替わり前後の事情に興味が出て、パテに大量の録音を残しているニノン・ヴァランのディスコグラフィーを調べてみた。

ニノン・ヴァラン、本名Eugénie Vallin (1886-1961)のレコードは、mr.hmvさんからお借りしたRC誌[1]によると、500面近くある。
最初期の録音は、1913年のパテ"Etched-label"である。6面の内、4面が発売された。
次いで、1914年にフレンチ・グラモフォンに吹き込んだが、9面の内、2面しか発売されなかった。

というふうに書いていくと、とても終わらないので、パテが新しくWestern Electric社から電気録音システムを導入して1927年10月から録音を開始した、"Art-label"のみに限定する。
これはマーストンがすべてを復刻しているので[2]、サイトからトラック・リストをコピー・ペーストして、いつものフォーマットに整えた。こういうのがあると非常にラクチンである。
ニノン・ヴァランのパテ・アール_d0090784_117257.jpg
このレーベルは最初、29cmと30.5cmの2種類が発売されたが、1929年ごろ25cmが加わり、30.5cmは他社と同じ30cmにサイズダウンされた。1928年ごろには下のリストでわかるように、同じ演奏で30cmと30.5cmが混在するものがある。

1927年12月に華々しく登場したパテ・アールは、しかし最初の17枚は、電気録音システムの操作に未熟であったせいであろうか音が悪く、カタログに載る間もなく回収された。したがって現在ではほとんど目にすることはできない。
下記のリストの1927年の3枚6面も、1枚か2枚の縦振動のコピーが現存するだけだそうだ。

復刻CD[2]の最初の6トラックを聴いたとき、なんでこんなに音が歪んで聴き苦しいものを復刻したんだろ、と思ったが世にも稀な音源だったのね。これらは1928年に再録音された。

また、先のキュルティでも引用した文献[3]によると、少なくともマトリクス番号201,000以降が電気録音だという説明であったが、実際はもう少し前から電気録音になっていたようだ。

[1]の解説には、ニノン・ヴァランにはアート・レーベル以前に、1927年5月録音の通常の"Paper-label"シリーズ13面があって、これらも非常にレアなものだそうであるが、この中のマトリクス番号200,736を聴いたが紛れもなく電気録音であった、と書かれている。
それで、この著者は、マトリクス番号200,000から電気録音に切り替わったのではないか、という仮説を立てている。

また、[3]の説明では、電気録音は、"W"のマークがあると書かれている。[1]のディスコグラフィー氏は、文献[3]をかなり意識しているようで、あれにはこう書いてあるけど、私はこう思う、というたぐいの文章がたびたび出てくるが、"W"に関しても、見たことはないと書いている。

写真のX7149 [201283] Chant Hindouには、金襴緞子のようなレーベルの下に確かに刻印はあるが、"W"には見えない。
録音技術は、この頃には安定していたようで、初期電気録音らしい、高域の華やかさが感じられる。
ただし、この盤には終わり頃に、ニードル・ドロップによる傷があり1,2溝スキップする。もっとも、3割ほど値切って買ったので文句は言えないが。

Ninon Vallin Pathé-Art Label Recordings

October 1927
200912 7108 LA BOHÈME: On m'appelle Mimi {Mi chiamano Mimi} (Puccini) [3:38] (29 cm)
200913 7108 LA BOHÈME: Les adieux de Mimi {Donde lieta uscì} (Puccini) [2:55] (29 cm)
200914 7109 CARMEN: Habanera (Bizet) [2:42] (29 cm)
200915 7109 CARMEN: Séguedille (Bizet) [1:57] (29 cm)
200929 7115 MADAMA BUTTERFLY: Sur la mer calmée {Un bel dì vedremo} (Puccini) [3:18] (29 cm)
200930 7115 LOUISE: Depuis le jour (Charpentier) [3:13] (29 cm)

July 1928
201270 x7145 LA BOHÈME: On m'appelle Mimi {Mi chiamano Mimi} (Puccini) [3:33] (29 cm)
201271 x7145, x7156 LA BOHÈME: Les adieux de Mimi {Donde lieta uscì} (Puccini) [2:55] (29 cm)
201272 x7143, x7156 MADAMA BUTTERFLY: Sur la mer calmée {Un bel dì vedremo} (Puccini) [3:14] (29 cm)
201273 x7143 LOUISE: Depuis le jour (Charpentier) [3:33] (29 cm)
201274/5 x7144 THAÏS: Scène du miroir (Massenet) [5:53] (29 cm)
201276 x7146 Siete Canciones Populares Españolas: Seguidilla murciana (de Falla)[1:08] (29 cm)
201276 x7146 Siete Canciones Populares Españolas: Nana (de Falla)[1:12] (29 cm)
201277 x7146 Siete Canciones Populares Españolas: Jota (de Falla)[3:00] (29 cm)
201282 x7149 Le Nil (Leroux) [3:32] (29 cm)
201283 x7149 SADKO: Chant hindou (Rimsky-Korsakov) [3:36] (29 cm)
201284 x7147 CARMEN: Habanera (Bizet) [2:38] (29 cm)
201285 x7147 CARMEN: Séguedille (Bizet) [1:51] (29 cm)
201286 x7148 CARMEN: Les tringles des sistres (Bizet) [3:07] (29 cm)
201287 x7148 CARMEN: Air des cartes (Bizet) [3:06] (29 cm)
201429 x7166 MANON: Voyons, Manon (Massenet) [3:56] (30 cm and 30.5 cm)
201430 x7166 MANON: Allons! il le faut... Adieu, notre petite table (Massenet) [3:47] (30 cm and 30.5 cm)
201431 x7165 MANON: Je suis encore tout étourdie (Massenet) [3:39] (30 cm and 30.5 cm)
201432 x7165 MANON: A nous les amours (Massenet) [2:31] (30 cm and 30.5 cm)
201439 x7168 TOSCA: Prière de Tosca {Vissi d'arte} (Puccini) [3:24] (30.5 cm)
201440 x7168 TOSCA: Notre doux nid {No, Mario mio} (Puccini) [4:06] (30.5 cm)
201441 x7167 LE NOZZE DI FIGARO: Récit et air de Suzanne {Deh vieni non tardar} (Mozart) [4:16] (30.5 cm)
201442 x7167 DON GIOVANNI: Air de Zerline {Batti, batti} (Mozart) [3:45] (30.5 cm)

1929
202423/4 x7225 MANON: Duo de la rencontre (Massenet) [8:42] with Miguel Villabella, tenor (30 cm)
202438 x7226 Panis angelicus (Franck) [3:57] (30 cm)
202439 x7226 Voici le Noël (arr. Tiersot) [3:53] (30 cm)
202442 x3460 Siete Canciones Populares Españolas: Canción (de Falla)[1:04] (25 cm)
202442 x3460 Siete Canciones Populares Españolas: Polo (de Falla)[1:24] (25 cm)
202443 x3460 Siete Canciones Populares Españolas: El paño moruno (de Falla)[1:09] (25 cm)
202443 x3460 Siete Canciones Populares Españolas: Asturiana (de Falla)[1:58] (25 cm)
202466 x7227 LES CONTES D'HOFFMANN: Elle a fui, la tourterelle (Offenbach) [4:07] (30 cm)
202467 x7227 MANON: Je marche sur tous les chemins (Massenet) [3:48] (30 cm)
202462 x7228 FAUST: Ballade du roi de Thulé (Gounod) [4:39] (30 cm)
202463 x7228 FAUST: Air des bijoux (Gounod) [3:49] (30 cm)
202464/5 x7229 THAÏS: Scène du miroir (Massenet) [6:22] (30 cm)
202476 x7230 L'Invitation au voyage (Duparc) [3:52] (30 cm)
202477 x7230 Chanson triste (Duparc) [3:10] (30 cm)
250021/2 x7233 LE ROI D'YS: Margared, ô ma soeur... En silence pourquoi souffrir (Lalo) [6:50] with Madeleine Sibille, soprano (30 cm)

References
[1] F. Juynboll, R. Bebb and D. Mason, "Ninon Vallin Discography", Record Collector, Vol.48, No. 2 (June 2003)
[2] Ninon Vallin The Complete Pathé-Art Label Recordings 1927-1929, Marston 52006-2 (1996)
[3] V. Girard and H. M. Barnes, "Vertial-cut Cylinders and Discs", British Institute of Recorded Sound (1964)

by ibotarow | 2009-11-08 11:28 | 女声_電気録音 | Comments(7)
Commented by kaorin27 at 2009-11-14 18:46
いぼたろうさん こんばんは。

kaorin27です。コメントありがとうございました。
先ほどまで出かけており返信遅くなりましてすみません。

いやー!深く趣味をなさっている方は沢山おいでになると思っておりましたが、やはり専門で追及されている方はいらっしゃるのですね。
私などは唖然と読ませて頂きました。

古いオーディオを使うようになったきっかけがヴァランのアーンの歌曲だったので特別な思い入れのある歌手です。また、ゼンマイの手間と針を削ったり切ったりする手間を考えて、ドライバーでの電気再生も模索しているところです。

今後ともご教授頂ければ幸いです。改めてメールをさせて頂きますがまずは、ご挨拶まで。
Commented by credenza at 2009-11-15 00:21
ご無沙汰しております。

このレコード持っています。
例によってベルギーのガラクタ市で見つけました。2ユーロ。
でも2年間でパテのアール盤ってこれ一枚しか見つかりませんでした・・・

で、復刻CD、廃盤なんですね。これ、探しています。
Commented by ibotarow at 2009-11-15 07:33
kaorin27さん、

いえいえ、ボクのほうこそ、いつも唖然として読ませていただいています。
ここまでやる人いるのか、と思って。
ドライバーでの電気再生は、ボクはサウンドボックスの重針圧でかけるにしのびないレコードが増えたため、やむを得ずやっているのですが、もし、RCAのドライバーを試されるのでしたらお貸ししますよ。
Commented by ibotarow at 2009-11-15 07:39
credenzaさん、

2ユーロですか、ボクは50ドルを35ドルに値切って買いました。それでもひと桁以上違いますね。
復刻CDは、京都のレコード屋(わかりますよね)にありました。
Commented by Loree at 2015-10-18 22:29
今日、ご一緒させていただいた方からすごいことを伺いました。Ninon Vallinのグノー「アヴェ・マリア」で共演しているヴァイオリニストのことを。たぶんこのレコード(Disque Pathé 3118)だと思うのですが、復刻CDは出ていますでしょうか。
Commented by ibotarow at 2015-10-21 11:25
Loreeさん、

先日はお世話になりありがとうございました。

上記[1]によると、キュルティ伴奏のヴァランは2枚あるようです。

1921-22
3118 [3141C] Ave Maria (Gounod) with Yvonne Curti (violin) and Lily Laskine (harp)
3118 [3142C] Le Nil (Leroux) with Yvonne Curti (violin) and Lily Laskine (harp)

1923-24
3251 [1660] Sérénade du passant (Massenet) with Yvonne Curti (violin) and Lily Laskine (harp)
3251 [1661] Sadko (Rimsky-Korsakov): Chant hindou with Yvonne Curti (violin), Lily Laskine (harp) and Lespes (flute)

復刻は、[1]所収の復刻LPおよび復刻CDには見当りませんでした。
Commented by Loree at 2015-10-21 19:27
貴重な情報、ありがとうございました!
キュルティ協会に転載させていただきました。


<< 童謡謎レコード      キュルティのパテ縦振動盤 >>