2014年 04月 29日
![]() レコードを1枚も持っていないというのに。 きっかけは、某オークションにフレッシュのエジソン盤が3枚出ていて、そういえばカール・フレッシュのレコードもエジソンのレコードも持っていないなあ、とふと思って、まあ縁があるならと安値で入札したのです。 やがて日が経つにつれてほしい思いが募ってきて、ここは一つ落札の願掛けにディスコグラフィーを作ろうという次第に相成ったというわけです。 今までカール・フレッシュの演奏を聴いたのはSYMPOSIUMの3枚組復刻CD[1]だけです。 これでフレッシュの録音の大半は網羅していると思っていたのですが、調べていくと豈図らんや、いっぱいあります。特にエジソンが大量にあります。 ディスコグラフィーを作るにあたって、この復刻CDを改めて聴き直してみましたが、いいですね。 何がいいって、矩(のり)を越えない上品さ、しかもロマンティック。 ヌヴ―やハシッド、そしてヴォルフシュタールの師匠であることがよくわかります。 フレッシュの資質が彼らに受け継がれた言った方が良いかもしれません。 ますますレコードがほしくなりました。 一方、カール・フレッシュは同時代のヴァイオリニストに対する、歯に衣着せぬ言いたい放題の批評でも有名です。 ここでは、ハルトナックの「二十世紀の名ヴァイオリニスト」[2]の中で、フレッシュはこう言ったといって書いている文章を2,3紹介します。 まず、ジャック・ティボーについて、 「ティボーはその手法において新しいとともに、芸術家としての最終目標が、浄化されてはいるものの、まぎれもなくエロス的なものへ向けられている点で独自である。」 これは一見ほめているようでいて、その実、「ティボーはエロ親父だ」と揶揄してるんですね。 次にウイリー・ブルメスター、 「ブルメスターは、つねにヴィルトゥオーソ的な作品のみを弾き、バッハやベート-ヴェンを軽蔑し、音楽的な意味に合わせた歌い回しというものにまったく縁がなく、非音楽的で、音は冷たく、ぎくしゃくした弓づかいで、ギーギーいう雑音を伴っていた。」 これは全くの罵詈雑言ですね、よっぽど気に入らないことがあったのでしょうか? 3人目はヤン・クーベリック、 「クーベリックは、他の人々がやっとその才能を発揮し始める時期に、すでに頂点を越えてしまった不幸な種族の芸術家である。」 これはなるほどそうだったのかと思わせます。 もっと読みたくなりますが、原本は「カール・フレッシュ回想録(The Memoirs of CARl FLESCH)」で、日本語訳の単行本は出ていないようです。 これの抄訳が、佐々木庸一氏によって、「音楽藝術」の1958年10月号から、1959年5月号まで7回にわたって連載されました。国会図書館に行けば閲覧できるようなので、いつかヒマになったら行ってみたいものです。 さて、フレッシュの録音で一番古いのはアムステルダムで行われたODEONのセッションで、1904年~1907年(資料によって差異あり)に行われました。 フレッシュは1903年から1908年までアムステルダム音楽院の教授をしていましたので、その間の録音でしょう。 ヴァイオリンは彼自身のものではなく、ラッパ吹き込み用に開発されたストロー・ヴァイオリンが用いられました。 今聴いても不自然は感じは受けません。復刻CDの解説によると、 The sound, as we hear eight decades later, is remarkably vivid with depth and range suggesting a normal instrument. 「80年たって聴いても、その音は普通の楽器のように、非常に生き生きとして、深みと幅を持っている。」 その後、1914年にフレッシュはアメリカにコンサートツアーに出かけ、その時にエジソンのダイヤモンドディスクに初めて録音しました。 また、1924年から1928年にはフィラデルフィアのカーティス音楽院で教えましたが、その間にもエジソンに録音しました。 後年、シゲティがフレッシュから聞いた話では、「レコードの録音時、エジソンは外部のノイズに非常に敏感で、 フレッシュが弓に松やにを余分に塗ろうとしたら文句を言われた」そうです。松やにを塗りすぎると音がギスギスするのを嫌ったのでしょうか? なんせエジソンはラッパ吹き込みの時代においても、“s” と “ch,” の発音の違いの再生にこだわったそうですから。 エジソンは早くから電気録音の実験をしていましたが、電気録音に切り替えたのは1927年4月で他社より2年遅れでした。 なぜ遅れたかというと、彼はその頃もう耳がほとんど聴こえなくなっていて、先行他社の電気録音盤を聴いたけど、音が歪むほどボリュームを上げなければならなかったので、電気録音はダメだと判断したようです[9]。 下のリストでは1928年からが電気録音だと思われます。 また、1926年、エジソンは長時間レコードを発表しました。 これは今までと同じ80 rpmの回転数で、収録時間が 10 inch:24 min. 12 inch:40 min. となっています。これを実現するため、溝のピッチは 450 lines/inch と、従来のダイヤモンドディスクの3倍の密度にしなければなりませんでした。 そのため、音量も従来の40%しかなく、溝の壁が崩壊する事故が多かったそうです。 1928年に、カール・フレッシュの電気録音から10曲が、1枚の長時間レコードにダビングされて発売されました。 下のリストの30006の12インチ盤です。 さらに、1929年、ついに横振動レコードを発売しました。 下のリストのNで始まるマトリクスが横振動で、マイクの出力を二つにわけて、縦振動と横振動の2台のレースで同時にカッティングしたそうです[10]。 横振動レコード(Needle Type Disc)は1929年8月に売り出されましたが、時すでに遅しで、ほとんど売れず、同年10月にエジソンはレコード事業から撤退しました。 もちろん、1929年10月に起こった大恐慌という外的要因もあると思いますが。 というわけで、とりあえずディスコグラフィーを作りましたが、中でもOdeonのリストはまだ不完全なもので、ソロが13面と、メゾソプラノのPauline de Haan-Manifargesの伴奏が3面ありますが、マトリクスの不明な盤が6面ありますし、混乱している箇所もあります。?の部分の情報をご存知の方はぜひご教授ください。 その後、オークションの結果はどうなったかと申しますと、何日か経って胴元からメールが来ました。 Unfortunately, you totally struck out this time. ![]() ![]() ![]() ![]() その後、貫太さんからクライトン第2版[1]]のフレッシュの頁をご教示いただき、オデオンのリストの?をだいぶ減らすことができました。ここに厚く感謝の意を表します。(2014年5月2日) References [1] Carl Flesch: Historical Recordings, 1905 - 1936 , SYMPOSIUM 1032/3/4 (1987).解説は下記 http://www.classical-mp3.net/download_booklet.aspx?...pdf [2] J. ハルトナック、二十世紀の名ヴァイオリニスト、松本道介訳、(白水社、1971) [3] The Discography of Carl Flesch by Cheniston K. Roland http://www.carl-flesch.de/ ほとんどクライトンの丸写し [4] ODEON Matrix Numbers — A/xA/xxA (Amsterdam) http://discography.phonomuseum.at/odeon/odmxA.pdf [5] TRUESOUND ONLINE DISCOGRAPHIES, ODEON (incl. FONOTIPIA), http://www.truesoundtransfers.de/ [6] TRUESOUND ONLINE DISCOGRAPHIES, EDISON (Diamond Discs) http://www.truesoundtransfers.de/ [7] Labelliste von 'Edison (USA)'. (1912-1929). 31.03.2014 by Henry König http://musiktiteldb.de/Label/Edi_80.html [8] ALAN KELLY, HIS MASTER'S VOICE/DIE STIMME SEINES HERRN THE GERMAN CATALOGUE: A Complete Numerical Catalogue of German Gramophone Recordings made from 1898 to 1929 in Germany, Austria and elsewhere by The Gramophone Company Ltd., CDROM. [9] Tim Gracyk, Edison Diamond Discs: 1912 - 1929 http://www.gracyk.com/diamonddisc.shtml [10] The BILLY MURRAY Discography: Edison Electrical Recordings http://www.mainspringpress.com/MURRAY_DISCOG_ED-EL.pdf [11] James Creighton, Discopaedia of the violin 2nd ed., (Records Past Publishing, Burlington, Ont., 1994)
by ibotarow
| 2014-04-29 12:02
| ヴァイオリン_ラッパ吹き込み
|
Comments(2)
![]()
こんばんは。拙ブログのカール・フレッシュの記事に、ディスコグラフィの情報を使わせていただきました。お陰様で良い記事が書け、感謝いたします。
彼が1929年に演奏したヘンデルの「マーチ」は原曲がずっと分からないままだったのですが、初めて原曲を知ることができました。
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ポンちゃんさん、
お役に立てたようで光栄です。 また、記事中にいぼたろうの名を2度も出してくださって恐縮です。恥ずかしいのでそちらにコメントはいたしませんが、ありがとうございました。 しかし、カール・フレッシュの日本盤があるとは知りませんでした。 |
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