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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2016年 05月 19日

最後のマルセル・メイエル DF14

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_14381871.jpg

前回でDF86問題も決着が付き、もうメイエルのラモーについては思い残すことはないと思ったのですが、やはり1946年録音が気になって、レコードで聴いてみたいと、ついに先日「ラモー クラヴィアのための11の小品 N°14」を入手しました。
内容は下記のとおりです。

N°14
Rameau: Onze pièces pour clavier
[DF 14 1C2, PART 13324, M3-132009]
 Les Sauvages (1'35") 
 Les Cyclopes (2'45")
 Les tendres plaints (2'36")
 La Villageoise (1'30)
 Gavotte et doubles (6'35") 
[DF 14 2C3, PART 13762-1, M3-133201]
 Les Soupirs (3'53") 
 Fanfarinette (1'30")
 Le Rappel des oiseaux (2'41")
 L'Entretien des Muses (4'23") 
 La Livri (2'24")
 L'Égyptienne (2'01") 
【1946-05-07/08】

( )内にEMIの復刻CD[1]による演奏時間を示します。
これは78回転盤 Album 14、

Album 14, 4 disques 64-67 
Rameau: Onze pièces pour clavier
64 1 [PARTX 2694-2] Les sauvages - Les cyclopes
64 2 [PARTX 2695-1] Les tendres plaintes - La villageoise
65 1 [PARTX 2696-1] Les soupirs
65 2 [PARTX 2691-1] Gavotte & doubles
66 1 [PARTX 2692-1] do
66 2 [PARTX 2697-1] Fanfarinette - Le rappel des oiseaux
67 1 [PARTX 2693-1] La livri - Legyptienne
67 2 [PARTX 2698-1] L'entretien des muses
【1946-05-07/08】

と同じ内容です。

ジャケットにはN°14と書いてありますが、盤面にはDF 14と刻印されています。
さっそくピエールクレマンで聴いてみました。
コリッとした美しい音ですが、歪むところもあります。

1946年のスカルラッティDF15と同様、ワウフッターで細かく震えます。曲によって程度が違いますが、Les Cyclopesが一番酷い。
また、Gavotte et doubleは真ん中辺でピッチががたっと落ちますが、これは78回転のアセテート原盤の盤面が替わって外周になるためでしょう。
さらに、曲によって音量レベルが違い、中でもL'Entretien des Musesが一番大きい。この曲は歪むし、震えます。
1953年録音よりピッチが高いですが、これは元々のピアノのピッチが違うのか、録音・転写システムのためかはさだかではありません。
EMIの復刻CD(正確にはその海賊盤[2])ではワウフラッターはそんなに気にならないので、ピッチやレベル差の問題も含めて、アセテート原盤からの転写時の品質管理の問題かもしれません。

演奏は、キレがあり、軽快で、颯爽としています。
それに対して1953年録音は、コクがあり、優美で、ゆったりしています。

ちなみにDF98/99の内容は下記で、●がDF14と重複している曲です。
( )内に[1]による演奏時間を示します。
[ ]内はDF14の演奏時間です。
DF14の方が短いものがほとんどですが、数秒の差はファイルの切り方で誤差の範囲内だと思います。
中には、Les Soupirsのように大幅に異なるものがありますが、これは繰り返しの有無でしょうね。

DF 98/99
Rameau: L'œuvre pour clavier
[DF 98 1C5, XPARTX 26508, M6 165042]
1-er Livre (1706) :
 Prélude (3'06")
 Allemande (1'43")
 2-e Allemande (1'41")
 Courante (1'44")
 Gigue (1'35")
 Sarabande (1'56")
 Vénitienne (1'22")
 Gavotte (1'25")
 Menuet (1'10")
Recueil de 1724 (début) :
 Menuet et rondeau (0'45")
 Allemande (2'29")
 Courante (1'44")
 Gigue en rondeau (1'34")
 2-e Gigue en rondeau (2'19")
 Musette en rondeau (1'54")
 Le Rappel des oiseaux (2'59") ● [2'41"]

[DF 98 2C3, XPARTX 24162, M6 160688]
Recueil de 1724 (suite) :
 Rigaudons I and II (1'06")
 Tambourin (1'20")
 La Villageoise (rondeau)(1'37") ● [1'30]
 Les tendres plaintes (rondeau) (2'37") ● [2'36"]
 Les Niais de Sologne, avec 1 and 2 doubles (5'23")
 Les Soupirs (5'30") ● [3'53"]
 La Joyeuse (0'49")
 La Follette (rondeau) (1'30")
 L'Entretien des Muses (4'30") ● [4'23"]
 Les Tourbillons (rondeau) (2'07")
 Les Cyclopes (rondeau)(2'41") ● [2'45"]

[DF 99 1C3, XPARTX 24184, M6 160796]
Recueil de 1724 (fin) :
 Le Lardon (menuet) (0'28")
 La Boiteuse (0'28")
Nouvelles Suites (début) :
 Allemande (3'54")
 Courante (4'37")
 Sarabande (2'08")
 Les Trois Mains (3'29")
 Fanfarinette (2'41") ● [1'30"]
 La Triomphante (1'04")
 Gavotte et doubles (6'42") ● [6'35"]
 Les Tricotets (1'32")
 L'Indifférente (1'47")

[DF 99 2C6, XPARTX 25296, M6 163030]
Nouvelles Suites (fin) :
 Menuets I and II (2'21")
 La Poule (3'06")
 Les Triolets (2'38")
 Les Sauvages (1'35") ● [1'35"]
 L'Enharmonique (3'54")
 L'Égyptienne (2'04") ● [2'01"]
 La Dauphine (2'43")
Pièces en Concert :
 La Livri (rondeau) (2'43") ● [2'24"]
 L'Agaçante (1'44")
 La Timide (1-e and 2-e rondeaux) (4'17")
 L'Indiscrète (rondeau) (1'16")
【1953-10-29/30】

音は上に述べたようにいろいろ問題がありますが、演奏はすばらしく大変満足しました。
ちなみに銚子のAさんによると、
「78回転のメイエルはアバズレの風情があります。」
うまいこと言いますねえ。ボクの以前書いた「キャピキャピギャル」より本質に肉薄しています。
これでメイエルは最後にします。




と、これで一件落着かに見えたのですが、やっかいな問題が持ち上がりました。

上で、「EMIの復刻CD(正確にはその海賊盤[2])ではワウフラッターはそんなに気にならない」と書いた手前、念のため、もう一度確かめておこうと、一番酷かったLes Cyclopesで、前回と同じようにカートリッジDL-102、プレーヤDJ-3500でDF14を再生し、KORG DS-DAC-10Rで録音して、CDと聴き比べてみました。
すると驚いたことに、ワウフラッターもさることながら、ピッチがずいぶん違います。

そこで先ずピッチの問題から。
AudacityによるLes Cyclopesの波形の比較を示します。上がCD、下がDF14です。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_13131598.jpg

Audacityには”スピード変更”という便利な機能が付いていますので、DF14のピッチをCDのピッチに合わせてみました。
何度か試行錯誤して、DF14の当初スピードX0.94 にすると、同じピッチになることがわかりました。
平均律では、半音ごとの周波数比は、2の12乗根分の1=0.94387...ですので、これはほぼ半音の差に相当します。かなりの差ですね。
またこのピッチにすると、DF98のピッチとも合うことがわかりました。
復刻CDの製作に当たってEMIは、違和感の無いよう後の録音ピッチに合わせたのかもしれません。
3つの波形を示します。上がCD、中がDF14の0.94倍再生、下がDF98です。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_13173412.jpg

この中段の修正版を下段のDF98の波形と比べてみると、DF98の方が演奏スピードが速いことがわかります。
何が真実かわからなくなりましたが、他の曲ではどうでしょうか?

いろいろ聴き比べた結果、中にはほとんど同じ曲もありました。
Gavotte et doublesの波形を示します。上がCD、下がDF14です。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_1321121.jpg

わずかにDF14の方が速いようですが、ピッチはほとんど同じに聴こえます。
さらにこの曲では、3分10秒を過ぎた辺で盤面を替えることによるピッチの変化がありますが、CDではそれほど目立ちません。EMIはこの部分のピッチ補正もやっているようです。

という訳で、DF14が快活な感じがするのは、ピッチのせいもあるかもしれません。
78回転盤はどうなのでしょうか?

と、ここまで書いて、EMIの復刻CDの解説[1]を見ると、ピッチに関する記述があって、
"Lastly, the pitch has been set at 440 Hz for all the 78 sides that sounded a semitone higer."
つまり、78回転盤はすべて半音高く聴こえたので、ピッチを440 Hzになるように合わせた。
と言っています。

上で、「1953年録音よりピッチが高いですが、これは元々のピアノのピッチが違うのか、録音・転写システムのためかはさだかではありません。」と書きましたが、EMIの見解としては、ピアノのピッチの問題ではなく、録音時アセテート原盤の回転スピードが低く、それを78 rpmで再生すると半音高く聴こえたということのようです。

したがって、LP転写時の問題ではなさそうです。
これで無理してラモーの78回転盤を探し求める必要はなくなりました。

次は、本題のワウフラッターですが、DF14には曲によって大なり小なりワウフラッターがあって、ピアノの音にビブラートがかかります。
どれくらいの周波数で変調されているのか、ひょっとしたら、その振動音なり何なりの成分がスペクトル上に現れているかもしれないと、一番酷かったLes Cyclopesのスペクトルを見てみました。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_13235880.jpg

これを見ると、10Hz前後にひときわ高いピークがあります。
ああ、これが変調のみなもとかと思ったのですが、10Hzというとかなり速い揺らぎで、どうも聴いた感じではもっと低い、数Hzくらいのように思われます。

それで次に、DF98のLes Cyclopesのスペクトルを見てみました。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_13242010.jpg

なんと驚いたことに、ここにも10Hzにピークがあります。DF98のピアノは全然揺らがないので、これがワウフラッターの原因ではないようです。
では、これはいったい何でしょうか?

考えられるのはプレーヤ、カッティングレース、テープレコーダ等の回転むら、それに起因する振動等ですが、レコードにそんな低周波が録音されているとも思えないので、一番可能性のありそうなのがバチモンプレーヤです。

そこで、別のプレーヤ、コラーロでDF14のLes Cyclopesを再生してみました。
カートリッジはピエール・クレマンです。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_13254363.jpg

50Hzの鋭いピークがありますが、これはカートリッジからのリード線がシールドされていないので、ハムを引いているためです。耳でも聴こえます。
それより下は多少デコボコしているものの、なだらかに減衰しています。
10Hzにピークは見られません。

1Hz以下にも成分がありますが、これは上のDL102の場合でも見られましたので、KORGのアンプのDCバランスのせいかもしれません。

揺らぎの原因となる成分はないようです。
コラーロはよぼよぼの老兵なので、このような検証実験には適さないだろうと思って使わなかったのですが、立派に使えるようですね。
ただ回転数の正確さについては何とも言えませんが。

これらの結果から、10HzのピークがコスモテクノDJ-3500のモーターのコッキングではないかと疑い、モーターの極数を調べてみたのですが、わからず、モータ鑑定団[3]に、
「SL-1200もMK2以降はクォーツロック化されたものの、極数スロット数が削られ(16極12スロット?)モーター自体の価値は低下した。」
という記述を見つけました。
SL-1200そっくりさんのDJ-3500もたぶん同じではないでしょうか?

調べてみるとコッキング周波数は、極数とスロット数の最小公倍数で決まるそうです。
16と12の最小公倍数は48ですので、これが1回転で発生するコッキングの数になります。
そうすると33.333...rpmで回転した時、1秒間当たりの0.555...回転では、
48 x 0.555... = 26.666...
となります。

たしかに、20Hzと30Hzの間にも小さな成分があるので、これがコッキングかもしれません。
でも、上のコラーロのスペクトルにも同じところに小さなピークがあるので、何とも言えません。

それでは、DJ-3500の10Hzのピークは何でしょうか?
コッキングではないとすると、あと考えられるのはアームの共振くらいです。
共振周波数はカートリッジのコンプライアンスに依存しますので、うちで一番コンプライアンスが低いと思われるデッカ・ゲンコツで、DF98の同じ曲Les Cyclopesを再生してみました。
その結果を示します。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_13273695.jpg

ピークは20数Hzに移動して、これで低域のピークがアームとカートリッジによる共振だとわかりました。
それにしても、ピエールクレマンとゴルフ院長製作のアームでは、明確なピークが見られなかったのが不思議です。
もちろん有るより無い方が良いのですが、これは今後の検討課題ですね。

参考までに、復刻CDのLes Cyclopesのスペクトルを示します。やはり10Hzのピークはありません。

最後のマルセル・メイエル DF14_d0090784_13292983.jpg

10Hz以下にもほんのわずかですが成分があります。
また10kHz以上にもありますが、これはいろいろ整形した際、サンプリング定理に違反するような処理をして、エイリアシングが発生したためかもしれません。

ところで、Audacityには”ワウワウ (Wahwah)”[4]というビブラートを付ける機能があります。
周波数と振幅と位相を調節できますので、これを利用すれば、ワウフラッターを部分的に打ち消せるのではないか、とも思われますが、ピッタリ逆相にするのがかなり難しそうですので、まだ手を付けていません。

ワウフラッターを除去するソフト[5]もあるようで、試用版も公開されていますが、当初の課題「復刻CDはDF14よりワウフラッターが少ないか?」からどんどんずれて行きそうで、そのうち、ヒマでしょうがなかったら試してみます。

それで改めて、復刻CDとDF14のLes Cyclopesを何遍か交互に聴いてみましたが、たしかにワウフラッターはDF14より抑制されています。
何らかの処理がなされているようです。

復刻CDの解説[1]にこのあたりのことが書かれていないか見てみました。補正したとは書かれていませんが、復刻にはかなり苦労はしたようです。
曰く、
"From the technical point of views, the restoration of the 78s was often made difficult and sometimes unsatisfactory by irregular speeds, by 'wow' at the ends of sides, and by substantial variation in sound levels - many, many problems, which had to be resolved by means of sometimes painful compromises."

何に苦労したかと言うと、不規則なスピード、ワウ、音量の変化です。
これらの問題は、時には痛みを伴う妥協によって解決されなければならなかった。
と言っています。

ちなみに音質の差ですが、CDは輪郭がボケます。DF14の方がクッキリして、演奏のニュアンスが豊かに感じられます。聴いた後の満足感もDF14の方がずっと大きいです。
メイエルもこのレコードを聴いて発売を了承したのでしょうから、DF14はこのまま楽しむことにしようと思います。


References
[1] Marcelle Meyer -Studio Recordings 1925-1957, EMI Classics, CZS3846992 (2007)
[2] Marcelle Meyer - Complete Studio Recordings 1925-1957, Documents, LC 12281
[3] http://www7b.biglobe.ne.jp/~konton/Museum-10%20SP-10%20Series.htm
[4] http://manual.audacityteam.org/man/wahwah.html
[5] http://www.celemony.com/ja/capstan


by ibotarow | 2016-05-19 09:00 | ピアノ_電気録音 | Comments(2)
Commented by Loree at 2016-05-22 12:22 x
おお、メイエルは1946年にもLes Sauvages(未開人)を録音しているのですね。
先日聴かせていただいたDF99とDF86の同時再生はまったく同じ演奏が鳴っているはずなのにステレオ録音そのものという感じで不思議でした。実は、DF99とDF86は別マイクで収録した同じテイク…なんてことはないですか♪
Commented by ibotarow at 2016-05-23 11:16
Les Sauvagesは未開人という意味でしたか、さすがLoreeさん。

ステレオ録音のように聴こえるのは、左右で位相が微妙に違うからだと思います。
まず、左右の曲の始まりを厳密に合わせなくてはなりませんが、適当にやってますので、ここで位相がちょっと狂う。
次に、回転ムラかテープの伸び縮みか何かよくわかりませんが、曲の途中でも左右の位相関係が変わるようです。



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