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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2017年 10月 08日

サラサーテ盤の回転数その5

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_20240009.jpg

10年ほど前、チゴイネルワイゼンの回転数について調べた結果を、下記の4回にまとめました。

サラサーテ盤の回転数その1 
サラサーテ盤の回転数その2 
サラサーテ盤の回転数その3 
サラサーテ盤の回転数その4 

あまり明解な結論は得られませんでしたが、論点を整理すると、
1.HMV、ビクターによると、チゴイネルワイゼンは77 rpm。
2.4種類の復刻CDは、おおよそA=440 Hzで復刻している。
3.演奏トラックと、内周トラックのピッチは違うのでは?
等です。

先日クレイトンの復刻LP[1]を入手したのを機に、これらをもう一度検証してみたくなりました。
そこで、チゴイネルワイゼンを含む7種類のレコードについて、5種類の復刻盤で再調査しようというのが今回の目的です。

先ず、サラサーテの録音は、下記の9曲10面です。録音年はDAHR[2]に依ります。

[4258o] Partita No 3 BWV1006: Prelude (Bach)
Gramophone 37931, 67903, AA111, E183, EW3, P527

[4259o]  Introduction et Caprice Jota, Op 41 (Sarasate)
Gramophone 37932

ca. Nov 1904-Dec. 1, 1904 Paris
[4260o] Introduction et tarantelle, Op 43 (Sarasate)
Gramophone 27961, 37933, 47965, 61886, 67904, AA-112(Spain), E-183, ER-75(Czechoslovakia), EW-3(Germany), P527
Victor 52709, 62111

12/1/1904 Paris
[4261o] Miramar-Zortzico Op 42 (Sarasate)
Gramophone 27960, 37934, 47964
Victor 52708, 62110, 97231

ca. Nov 1904-Dec. 1, 1904 Paris
[4262o] Caprice basque Op 24 (Sarasate)
Gramophone 27959, 37929, 47966, 67900, AA-110(Spain), ER-76(Czechoslovakia)
Victor 52720, 62115, 63168

ca. Nov 1904-Dec. 1, 1904 Paris
[4263o] Zigeunerweisen Op 20 (Sarasate) Part-1
Gramophone 27962, 37930, 47962, 67901, E-329, AA-110(Spain), EW-2(Germany)
Victor 52710, 62112, 63167, 97245

ca. Nov 1904-Dec. 1, 1904 Paris
[4264o] Zigeunerweisen Op 20 (Sarasate) Part-2
Gramophone 27961, 37935, 47963, 67902, E-329, AA-111(Spain), EW-2(Germany)
Victor 52711, 62113, 63167, 97246

ca. 1904-1905 Paris
[4265o] Danzas españolas, Op 21. Habanera (Sarasate)
Gramophone 37936, 47967
Victor 52707, 97230, 62110

[4266o] Zapateado, Danse des souliers Op 23 No 2 (Sarasate)
Gramophone 37937

[4267o] Nocturne Op 9 No 2 (Chopin-Sarasate)
Gramophone 37938

これらのうち、プレリュード、カプリス・ホタ、ノクターンは持っていないので、それ以外の7面について調べます。

次に、回転数の推定法をデジタル化その16 ヨーゼフ・ハシッドからコピペしますと、
“まず、レコ―ドをクォーツロックのかかる78 rpmで再生、録音します。
この波形と、復刻CDの波形を、Audacity[3]上で比較します。
「スピード変換」によってレコードの波形を伸縮させて、両者が同じ長さになるように合わせます。つまりピッチを合わせるのではなく、演奏時間を合わせようという魂胆です。
両者を同時再生して、同じピッチ、同じテンポであることを確認します。
その時の変換係数を78に掛ければ、復刻CDの再生回転数が出ます。”

一例としてチゴイネルワイゼンpart 2の波形を図1に示します。
上がクレイトン盤の再生波形、下がレコードを72.8 rpmに合わせた波形です。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_20244434.jpg
図1 チゴイネルワイゼンpart 2の再生波形:クレイトン復刻盤(上)とレコード@72.8 rpm(下)

それから、内周トラックの周波数は、Audacityの「スペクトラム表示」のピークの値から求めました。
一例として上図下段の最後に見られる内周トラックのスペクトルを図2に示します。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_20253834.jpg
図2 チゴイネルワイゼンpart 2の内周トラックのスペクトル

内周トラックにはA音が録音されていると言われていますが、78 rpmで再生した時、レコード間でどのくらい周波数の、ひいては回転数のバラつきがあるかを調べてみました。
結果を図3に示します。録音した時は同じ高さの音だったはずですが、458 Hzから471 Hzまでかなりバラついていることがわかります。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_20255402.jpg
図3 78 rpmで再生した時の内周トラック周波数

さて、7種類のレコードに対する、5種類の復刻盤の調査結果を示します。
推定再生回転数を図4に、

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図4 5種類の復刻盤の推定再生回転数

図4の回転数における内周トラックの周波数を図5に示します。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_10302777.jpg
図5 図4の回転数で再生した時の内周トラックの周波数

まず目につくのは、クレイトンとその他の復刻盤との差です。
クレイトンは、大幅にずれているのもありますが、内周トラックの周波数が440 Hz近辺になるように回転数を調整するという方針だったようです。
A=440 Hzが正解かどうかは別にして、これは非常に合理的な考えだと思うのですが、現実はそう単純でもないようで、その他の復刻者は、そうは考えなかったようです。 1970年代(たぶん)と1990年代以降との違いですかね。

チゴイネルワイゼンpart1の場合、4種類の復刻CDは見事に70.7 rpmあたりに揃っています。
この回転数で再生したチゴイネルワイゼンの出だしのG音のピッチは、「サラサーテ盤の回転数その4」に書いたように、冒頭に挙げた論点2の
2.4種類の復刻CDは、おおよそA=440 Hzで復刻している。
に準拠したものとなりました。

その時の内周トラックの周波数は4種類とも415 Hz近辺で、440 Hzとは大きく異なります。
これは、先に挙げた論点3の、
3.演奏トラックと、内周トラックのピッチは違うのでは?
という仮説を裏付けるものです。

また、先に挙げた論点1の
1.HMV、ビクターによると、チゴイネルワイゼンは77 rpm。
ですが、
「サラサーテ盤の回転数その3」に書いたように、HMVの第2カタログには、
タランテラ:75 rpm
チゴイネルワイゼン:77 rpm
で再生せよ、と書いてあります。

タランテラの場合、78 rpm再生時の周波数は図3に示すように469 Hzですので、75 rpmでは、
469/78*75=451 Hz
となります。

チゴイネルワイゼンpart1の場合は、458 Hzですので、77 rpmでは、
458/78*77=452 Hz
となり、タランテラとほぼ一致します。
つまり、HMVの主張はそれなりに整合性があります。

ただ、チゴイネルワイゼンpart2は、464 Hzですので、77 rpmでは、
464/78*77=458 Hz
となり、part1と少し異なります。

HMVのカタログを作った人はpart1だけで77 rpmだと判断したとすると、内周トラックのピッチは、A=452 Hzとなります。
「サラサーテ盤の回転数その4」では、A=454 Hzが当時の演奏ピッチであろうと無理やり結論付けましたが、
ここで、先に挙げた論点3の
3.演奏トラックと、内周トラックのピッチは違うのでは?
の観点から、
演奏トラックのピッチをA=452~454 Hzとする回転数を考えると、70.7 rpmでA=440 Hzなので、
452/440x70.7=72.6 rpm
454/440x70.7=72.9 rpm
となります。
72.6~72.9 rpmが、HMVの顔もある程度立てた?落としどころじゃないでしょうか。

この場合の内周トラックの周波数は、77 rpmで452 Hzなので、72.6 rpmでは、
72.6/77x452=426 Hz
となります。
これは、A=452 Hzのピッチにおける、A♭に相当しますが、ほかの曲でも、図5に示したように、演奏トラックと内周トラックで、半音ほどではないにしても、差があるようです。






最後に、これはまだ仮説の段階で、しかもその検証は非常にめんどうだと予想されるので、気が付かなかったことにしようか、とも思ったのですが、一応書いておきます。

レコードと復刻CDのピッチを合わせる方法は、前に書いたように、演奏時間を合わせるとピッチも必然的に合うはずだということですが、もう少し詳しく書くと、
先ず、レコ―ドと復刻CDの演奏の出だしを揃えます。
次に、演奏の終わりが揃うように、レコードの音源を伸縮します。
その後、二つの音源を右と左に振り分けて、イヤホンでステレオ再生して確認します。

まず、Testamentの復刻CD[4]と比較したのですが、最初と最後を合わせても、途中でずれる場合がいくつかの曲で見られました。
Symposium[5]はどうかと調べてみると、やはり途中でずれる場合もありました。

これはうちのバチモンプレーヤ(Cosmotechno DJ-3500)が、クォーツロックとはいいながら、回転がふらふらしているのではないかと疑ったのですが、Pearl[6]やDiscografico[7]では、最初から最後まで途中も含めてピッタリ合ったので、うちのプレーヤの問題ではないと判断しました。

そうすると、TestamentやSymposiumのプレーヤの回転がおかしいのかということになりますが、それも考えにくいです。

あと、考えられるのは一つ、つまり録音時にカッティングマシンの回転数が変化し、それを復刻時に補正しているのではないか、ということです。

そういえば、ヴィクター・モーレルに書いたように、Marstonが、Victor MaurelのNinonは初めが79.5 rpmで終わりが83 rpmだと、自分の復刻CDの解説で書いていました。

さらに、Renaud 1901に書いたように、Maurice Renaudの1901年G&T
32081 [716] LE ROI DE LAHORE: Promesse de mon avenir (Massenet)
では、
“回転数は概ね74回転で始まるのですが、突然71回転に落ちる箇所が、数ヶ所あります。回転数はその後徐々に上がって、レコードの終わりには約72.5回転に回復します。
これはさすがのマーストンも追随して補正することはできなかったようです。”

今まで、演奏トラックと内周トラックはピッチが違うようだと思っていましたが、演奏トラック内では一定の回転数だという仮定のもとで、演奏時間を合わせる方法を取りましたが、途中で回転数が変化するとなると、この方法も再考が必要です。

この回転数の変化を検証するためには、楽譜を用意して複数の同じ音程の音に注目し、それらが外周と内周でピッチが変わるか、変わらないかを調べる必要があります。
マーストンのように絶対音感を持っている人には簡単な作業でしょうが、ボクのように持っていない身には、考えただけで大変で、何らかの計測手段を弄せざるを得ません。

今回、練習として、演奏中のパッセージの一音のような非定常音の周波数が、Audacityのスペクトル解析で安定して求まるのかどうかを確かめるため、チゴイネルワイゼンの楽譜[8]から音を選び、その周波数を求めることを試みました。

離散スペクトル解析の周波数間隔dfは、
df=fs/N,
ここで、
fs=44100 Hz(サンプリング周波数)
N=4096(サンプリング点数)
ですから、スペクトルは、おおよそ11 Hz間隔でしか得られません。

これらの離散データからピークの周波数をどのような補間方法で求めるのか、恐らく何らかのカーブフィッティングを行うのでしょうが、中身がわからないのが、この種のフリーソフトを使う上での不安な点です。しかしまあ信用するしかないですね。

また、指定解析区間をどのように分割して解析するのかもわかりませんが、常識的に考えて、解析区間をN点毎に分割して窓関数をかけ、それぞれスペクトルを求めた後でそれらを平均する、のではないかと思われます。
最低、どれくらいの長さの区間が必要かというと、上式のdfの逆数ですから、
1/df=0.093 sec
つまり、約0.1秒以上あれば分析できることになります。

さて、サラサーテ大先生のフィンガリングを信用しないわけではありませんが、比較するのはやはり開放弦が安定していて良かろうと思います。
ヴァイオリンの開放弦はG, D, A, Eで、幸い、図6の赤丸に示すように、チゴイネルワイゼンの出だしの音がGです。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_20301441.jpg
図6 チゴイネルワイゼン冒頭部

そこで、曲の後の方に同じGの音が出てこないかと探してみると、part 1の終わりから6小節前の、図7に示した赤丸に出てきますので、この二つの音を比べました。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_20302065.jpg
図7 チゴイネルワイゼンpart 1後半部

図7のG音の波形を図8に示します。グレー部分が解析区間で、立ち上がりと立ち下り部を避けて中ほどの約0.2秒間を解析しました。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_16305614.jpg
図8 図7のG音の波形

ただ、スペクトルを求めてみると、図9に示すように、ピークはGの開放弦の第2倍音で、基本波成分はその30 dB以下です。

サラサーテ盤の回転数その5_d0090784_20304681.jpg
図9 図7のG音のスペクトル

へぇー、ヴァイオリンのスペクトルは基本波より第2倍音の方が強いのかと思いましたが、これは当時の録音システムの低域特性によると考えるのが自然でしょう。
それで基本波では精度が落ちるだろうと、第2倍音の周波数で比較することにしました。

レコ―ドを70.5 rpmで再生した場合と、TestamentおよびPearlの復刻CDの結果を示します。

           レコード  Testament  Pearl
  冒頭G (Hz)    393    392    395
  後半G (Hz)    386      391    389
  差 (Hz)       7     1     6

出だしと後半で、レコードとPearlは、6ないし7 Hzの差が見られました。これは回転数でいうと約1 rpmの差に相当します。
ところが、Testamentは1 Hzに収まっています。
別に有意差検定はしていませんが、やはり回転数は外周部と内周部で変化し、その差をTestamentは補正しているが、Pearlは補正していない、と考えられます。

これはえらいことになってきました。
今までの回転数推定は、TestamentとSymposiumについてはやり直しです。(未完)

References
[1] Masters of the Bow: Leopold Auer The private records 1920, Willy Burmester The complete German records 1909, Pablo de Sarasate The complete French records 1904, Discopaedia MB1003 (ca. 1970s?)
[2] Discography of American Historical Recordings
http://adp.library.ucsb.edu/index.php/talent/detail/44268/Sarasate_Pablo_de_instrumentalist_violin
[3] Audacity http://www.audacityteam.org/home/
[4] The Great Violinists - Recordings from 1900-1913, TESTAMENT SBT1323 (2012)
[5] The Great Violinists, Vol. 21: Pablo de Sarasate, Joan Manen, SYMPOSIUM 1328 (2004)
[6] Joseph Joachim, Pablo de Sarasate, Eugène Ysaÿe, Pearl OPAL CD 9851 (1992)
[7] La storia discografica del violino, vol. 6: Sarasatem Manen, Quiroga, Institute Discografico Italiano IDID 6385 (2002)
[8] Violin Sheet Music http://violinsheetmusic.org/classical/s/sarasate/



by ibotarow | 2017-10-08 07:31 | ヴァイオリン_ラッパ吹き込み | Comments(1)
Commented by Rafael fuwabo longe at 2022-02-22 08:44 x
色々な御執筆を拝見させて頂いております。私も中学生の時にアメリカヴィクターで,此の演奏家のレコードを購入した事で,集める事を始めました。2枚目はレコーディングエンジェルのマークの片面盤で,ショパン作サラサーテ編曲のノクターン9-2でした。後に品川さんが¥500000の値段で売っていると云われて,驚愕致しました。
古い書籍で自作のサパテアードは少なく値段が設定出来無いと,記されておりましたがショパンのノクターンと共に,初版だけでは無く,重版がプレスされて発売されていた様で有りまして,ノクターンは4回,サパテアードは7回以上見ております。家には,レコーディングエンジェルの片面盤だけで11枚,ドイツ語の犬のマークの両面盤は2枚,購入はしませんでしたが英語の犬マークの物は,片面盤と両面盤を5~6回,カラーのレコーディングエンジェルのマークのロシア語のラベルの物を1枚所持して目撃は3回,アメリカヴィクターは2枚所持の他に3回以上,日本ビクターは2枚所持して目撃は10回以上でした。ミラマールソルツィコとサパテアードは初版だけで無く重版も求め,続けて再生をし,音の違いを楽しみましたが,置き場所を確保の為にアメリカヴィクターの盤と日本ビクター盤は,割愛予定にしております。私が購入した価格は¥35000~¥39000位で購入し,銀座や神保町の中古レコードショップで¥70000~¥120000,での売値に驚愕で¥500000でのショパン作のノクターンには本当に驚愕でした。Alice Geraldine FarrarのGRAMOPHONE CONCERT RECORDの黒ラベルの盤でArie Aus”Traviata“を,¥5000位で購入致しました。初版で傷は有りません。赤ラベルの犬マークでHis Mastor's Voiceと記された盤は安くて¥8000位ですが,アメリカヴィクター盤が安くて¥3000位でしたから,購入致しました物は余り良くない物でしょうか?それとも店の主の無知でしょうか?持ち帰ってから,謎になりました。此の黒ラベルの物を,¥10000以下での購入経験が無かったので。


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