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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2017年 10月 28日

エネスコの回転数見直し その1

以前、エネスコの電気録音6枚をデジタル化した時、復刻CDとの聴き比べから、回転数をすべて78 rpmで再生した音源を下記にアップしました。

デジタル化その9 ジョルジュ・エネスコ2 コレルリ、プニャーニ、クライスラー
デジタル化その10 ジョルジュ・エネスコ3 ヘンデル 
デジタル化その11 ジョルジュ・エネスコ4 ショーソン

しかしながら、先日、湘南SPレコード愛好会M氏から、
「ショーソンのポエムは78 rpmだけど、ヘンデルのソナタは80 rpmだと思う」
という話を聞いて、サラサーテの回転数で行き詰まっていたこともあり、これはいいお題をいただいたと、回転数を見直すことにしました。


ヘンデルのソナタNo.4の楽譜[1]を見てみると、図1-1の赤丸で示すように、冒頭の音がD4音です。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08413482.jpg

図1-1 ヘンデル・ソナタ第1楽章 D4音


これと同じ音がショーソンのポエムの楽譜[2]にないか探すと、図1-2の赤丸のように、ヴァイオリンパート4小節目にありましたので、この二つを比べてみました。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08423822.jpg

図1-2 ショーソン・ポエム パート1 D4音


ただしショーソンの方は最初ピアノ伴奏がありますので、このD4音が現れるのは開始後1分ほど経ってからですが。

レコードはもう手元にありませんが、78 rpmで再生録音したファイルがありますので、それぞれのD4音の周波数を調べました。
周波数は、サラサーテ盤の回転数その5と同様、Audacityによるスペクトルから求めました。
図1-1のD4音のスペクトルを図1-3に示します。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08452765.jpg

図1-3 図1-1のD4音のスペクトル











図1-2のD4音のスペクトルを図1-4に示します。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08454635.jpg

図1-4 図1-2のD4音のスペクトル










これらからピークの周波数を求めると、次のようになりました。

ヘンデルD4音:286 Hz
ショーソンD4音:293 Hz

一方、78 rpmと80 rpmの回転数比は、
80/78=1.0254
で、もし、ショーソンが78 rpm、ヘンデルが80 rpmで録音されたと仮定すると、ヘンデルを78 rpmで再生した場合、その周波数は元の周波数より低くなります。
どれくらい低くなるかというと、78 rpmとしたショーソンD4音の周波数:293 Hzを用いて、
293/1.0254=285.74
となり、これは上のヘンデルD4音の周波数:286 Hzと極めて近い値です。
つまり、M氏のご指摘のように、ヘンデルは80 rpmで録音された可能性が高いことがわかりました。

ちなみに、この時の基準ピッチを調べてみると、
DとAの周波数比は
2**(7/12)=1.4983
ですから、78 rpmで録音された場合、
293*1.4983=439.0
となり、エネスコのヴァイオリンはたぶん、
A=439 Hz
前後で調律された可能性があります。

ここで、録音日を見てみますと、
まずヘンデルは、

18 Mar 1929, Sanford Schlüssel, piano
5110-M [98617-5] Sonata No.4 in D Major: Adagio (Handel)

11 Feb 1929, Sanford Schlüssel, piano
5110-M [98618-2] Sonata No.4 in D Major: Allegro (Handel)

18 Mar 1929, Sanford Schlüssel, piano
5111-M [98619-5] Sonata No.4 in D Major: Larghetto (Handel)

11 Feb 1929, Sanford Schlüssel, piano
5111-M [98620-1] Sonata No.4 in D Major: Allegro (Handel)

で、1929年2月11日と3月18日に分かれています。

次にショーソンは、

19 Apr 1930, Sanford Schlüssel, piano
50273-D [98621-12] Poème Op. 25 - 1 (Chausson)

18 Mar 1929, Sanford Schlüssel, piano
50273-D [98622-6] Poème Op. 25 - 2 (Chausson)

19 Mar 1929, Sanford Schlüssel, piano
50274-D [98623-5] Poème Op. 25 - 3 (Chausson)
50274-D [98624-6] Poème Op. 25 - 4 (Chausson)

で、テイク12の1面は1930年4月19日ですが、その他は、1929年3月18日と19日で、ヘンデルと同時期です。

ショーソンの1面は78 rpmだと仮定しましたが、2面はヘンデルの1面と同じ日なので、同じ回転数ではないかと考えるのが自然でしょう。
ヘンデルの1面は、上述のように80 rpmだと推測されます。

そこで、ショーソンの2面で、D4音がないか探してみると、開始から約2分半後に、図1-5の赤丸にありました。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08513961.jpg


図1-5 ショーソン・ポエム パート2 D4音


エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08484431.jpg

図1-6 図1-5のD4音のスペクトル











このD4音の周波数を調べてみると、図1-6に示すように、
286 Hz
となりました。
これはヘンデルの冒頭のD4音と同じピッチです。
なお、他の周波数にスペクトルがいっぱい立っているのはピアノの音だと思います。

したがって、ショーソンの2面は、
80 rpm
の可能性が高いと考えられます。

1面は78 rpm、2面は80 rpmのようですので、2面の翌日に録音された3,4面もおそらく80 rpmではないかと類推されます。
しかしながら、実証主義者としては、確認しなければなりません。

まず3面で、これまでと同じD4音を探すと、 図1-7に示す赤丸がありました。開始から2分34秒後です。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08522320.jpg


図1-7 ショーソン・ポエム パート3 D4音


エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08522726.jpg


図1-8 図1-7のD4音のスペクトル










この周波数を求めると、図1-8に示すように、
284 Hz
となりました。
1面D4音:293 Hz
2面D4音:286 Hz
でしたから、2面のD4音に近いピッチです。

次に4面でD4音を探すと、開始から1分48秒後に、図1-9に示す赤丸がありました。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08540983.jpg


図1-9 ショーソン・ポエム パート4 D4音


エネスコの回転数見直し その1_d0090784_08541707.jpg


図1-10 図1-9のD4音のスペクトル










この周波数を求めると、図1-10に示すように、
286 Hz
となりました。
これは2面のD4音とピッタリ同じです。

という訳で、ショーソンは、
1面:78 rpm
2, 3, 4面:80 rpm
ではないかと思われます。






ショーソンの回転数は4面とも一応推定できましたが、ヘンデルはまだ1面が済んだだけです。

ヘンデル2,4面の録音日は2月11日で、1,3面の3月18日のひと月ほど前です。
今までの経緯から、米コロムビアの回転数は電気録音になってからでも80 rpmで、それがいつの頃からか78 rpmになったと考えられますので、3月が80 rpmなら、それ以前も80 rpmだろうと予想されますが、やはり確かめる必要があります。

その前に、1面で調べたのは冒頭のD4音でしたので、内周でも回転数が変わらないかどうか、確かめておきます。
1楽章の終わりでD4音を探してみると、図1-11の赤丸にありました。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_10491813.jpg

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図1-11 ヘンデル・ソナタ第1楽章最終部D4音


図1-12 図1-11のD4音のスペクトル











この音の周波数を求めると、図1-12に示すように、
286 Hz
となり、冒頭のD4音とピッタリ同じでしたので、外周と内周で回転数は一定だとして良いと思います。

そこで、2面ですが、図1-13に示す開始43秒後のD4音の周波数を調べました。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_10475922.jpg

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図1-13 ヘンデル・ソナタ第2楽章D4音




図1-14 図1-13のD4音のスペクトル









結果は、図1-14に示すように、
291 Hz
となりました。
これは、78 rpmだと思われるショーソン1面のD4音:293 Hzに近い価です。

1面と同じ録音日の3面には、残念ながらD4音が出てきません。

2面と同じ録音日の4面はどうかと探してみると、終わりの方に、図1-15の赤丸に示す16分音符がありました。

エネスコの回転数見直し その1_d0090784_10520158.jpg

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図1-15 ヘンデル・ソナタ第4楽章D4音



図1-16 図1-15のD4音のスペクトル











周波数を求めると、 図1-16に示すように。
290 Hz
となりました。これは2面のD4音とかなり近い値です。

2面と4面の周波数の平均値290.5から回転数を求めてみると、
286/290.5*80=78.8 rpm
となりました。

さて、ヘンデル3面の回転数の確認がまだでした。
3面には、今までリファレンス音としてきたD4音はありませんので、図1-17赤丸に示すヘンデル冒頭から2音目のF#4音で、1面と3面を比べました。

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図1-17 ヘンデル・ソナタ第1楽章F#4音




図1-18 図1-17のF#4音のスペクトル










3面のF#4音は、開始後1分37秒後の図1-19赤丸に出てきます。
エネスコの回転数見直し その1_d0090784_10570294.jpg

図1-19 ヘンデル・ソナタ第3楽章F#4音


エネスコの回転数見直し その1_d0090784_10570791.jpg


図1-20 図1-19のF#4音のスペクトル










結果は、 図1-18、1-20に示すように、
1面F#4音:363 Hz
3面F#4音:363 Hz
となり、ピッタリ一致しました。

という訳で、1面と3面の回転数は同じであるとわかりました。
その値は、とりあえず
80 rpm
として良かろうと思います。

したがって、ヘンデルは今のところ、
1面:80 rpm
2面:79 rpm
3面:80 rpm
4面:79 rpm
あたりではないかと思われます。


References
[1] Handel: Violin Sonata No. 4 in D major, Op.1 No. 13, HWV 371 http://violinsheetmusic.org/classical/h/handel/
[2] Chausson: Poeme, Op. 25 http://violinsheetmusic.org/classical/c/chausson/



by ibotarow | 2017-10-28 07:11 | ヴァイオリン_電気録音 | Comments(0)


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