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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2018年 03月 25日

ティボーFonotipia

ティボーFonotipia_d0090784_12141795.jpg

クライスラーG&Tの回転数を調べたいきおいで、もう一方の雄、ティボーFonotipiaも調べたくなりました。
こういうことは、やる気のあるうちにやっとかないと、次はいつその気になるかわかりませんものね。
それにコンピュータ・ソフトは、使わないとすぐに操作方法を忘れてしまいますから。

今まで何べんもあげていますが、グボー[1]によるFonotipiaのリストを再掲します。

Jacques Thibaud FONOTIPIA Recordings

1905 Paris
[xPh 523-3, 524, 524-3] 39054 THAÏS (Massenet-Gallet): Méditation (84rpm)
[xPh 526] 39209 Mélodrame de Piccolino (Guiraud) (84rpm)
[xPh 531] 39208 Serenata (Vieuxtemps) (84rpm)
[xPh 532, 532-2, 532-3] 39087 Gavotte (Bach) (80rpm)
[xPh 666] 39231 LE CARNAVAL DES ANIMAUX (Saint-Saëns): Le cygne (80rpm)
[xPh 697] 39222 Scherzando (Marsick, op.6,2) (80rpm)

20 June 1907 Paris, w. A. d'Ambrosio (pf) (83.5rpm)
[xPh 2768] unp. Mélancolie (d'Ambrosio) / l'Abaile (Schubert)
[xPh 2769] unp. Berceuse (Faure)
[xPh 2770] unp. Aveu (d'Ambrosio)
[xPh 2771] unp. Sérénade (d'Ambrosio)

回転数は一応書かれているので、発売された6面を取りあえずその回転数で再生して、Symposiumの復刻CD[2]と合わせることにしました。
なお、未発売の4面のうち、ダンブロジオとシューベルトの3面については、グッディーズから復刻CD[3]が出ています。フォーレの子守歌は、残念ながらFonotipiaでなくPatheのものが入っていますが。

回転数を合わせた結果は、

[xPh 524] 39054 THAÏS (Massenet-Gallet): Méditation; 84.8 rpm
[xPh 526] 39209 Mélodrame de Piccolino (Guiraud); 85.2 rpm
[xPh 531] 39208 Serenata (Vieuxtemps); 84.1 rpm
[xPh 532-3] 39087 Gavotte (Bach); 78.5 rpm
[xPh 666] 39231 LE CARNAVAL DES ANIMAUX (Saint-Saëns): Le cygne; 80.0 rpm
[xPh 697] 39222 Scherzando (Marsick, op.6,2); 79.2 rpm

となりました。
前半と後半の2グループに分かれるのは同様ですが、その値は微妙にばらついています。

また、Mélodrame de Piccolinoでは、前半を合わせると、後半はレコードが遅れる。つまり、レコードの回転数を一定と仮定すると、復刻CDは後半で回転数が速くなる、と言うことを意味します。
Serenataも程度は少ないですが、同様の傾向がありました。
復刻CDは、外周と内周の回転数の違いも補正しているのかもしれませんが、これをやりだすと泥沼に嵌ること必定ですので、踏み込むのはやめておきます。

楽譜の入手できたTHAÏS: MéditationとLe cygneの基準ピッチを調べてみると、両者とも440 Hzとなったので、この復刻CDは、基準ピッチA4=440 Hzで復刻しているようだと思ったのですが、その後、Gavotteの楽譜を入手してみると、A4=433 Hzとなったので、あれあれ?となりました。

今まで、楽譜の中から特定の音を選んで、その音だけの部分の演奏を切り取って、スペクトルを求めていましたが、一音だけのデータだと、フィンガリングの誤差もあるでしょうし、意識的に音程をずらしている可能性もあります。
また、楽譜の無いケースには対処できません。
Mélodrame de Piccolino, Serenata, Scherzandoについては楽譜が入手できなかったので、これらのピッチは調査できませんでした。

そこで、考え方を変えて、というか何も考えずに、分析区間を演奏全体に広げて、スペクトルを求める方法を試みました。

今までやらなかったのは、演奏された音全部が入ってくるので、ほかの音の高調波が悪さをしないかと懸念したからです。
仮にA4=440 Hzだとすると、A3=220 Hzになり、この時、例えばD3は平均律で計算すると、
D3=220/1.4983=146.832 Hz、
ですので、その3倍の高調波は、
146.832*3=440.497 Hz
となります。
これはA4に極めて近い値で、A4の周波数推定に影響を与える可能性があります。
また、そもそもA4音が出てこない曲もあることでしょう。
でも、楽譜の無い曲のピッチを求める方法は他に思いつかないので、試しにやってみることにしました。

この方法ですと、ヴァイオリンとピアノ両方の演奏全体の平均データが得られることになります。
使用したソフト(Audacity)では、分析区間の最大値は237.8 secのようですが、ティボーFonotipiaは最大でも3分ちょっとですので、演奏全体がカバーできます。

先ず、グボー[1]による回転数で取り込んだレコード再生音源のスペクトルを求めました。
分析区間は演奏全体、FFTのデータ点数は、今まで短音を分析していたのでN=4096でしたが、今回は分析幅は十分長いので、このソフトの最大値N=65536としました。
この時の周波数分解能dFは、
dF=Fs/N,
ここで、
Fs=44100;サンプリング周波数 (Hz)
N=65536
ですので、約0.67 Hz毎に得られることになります。

420 Hzから460 Hzまでのスペクトルを下図に示します。

ティボーFonotipia_d0090784_10043529.jpg

これらのデータからピーク周波数を求めると、

THAÏS: Méditation; 433.36 Hz
Mélodrame de Piccolino; 432.68 Hz
Serenata; 438.07 Hz
Gavotte; 440.76 Hz
Le cygne; 441.43 Hz
Scherzando; 444.12 Hz

となりました。
これらの値から、A4=440 Hzとなる回転数を求めると、

THAÏS: Méditation; 440/433.36*84=85.287 rpm
Mélodrame de Piccolino; 440/432.68*84=85.421 rpm
Serenata; 440/438.07*84=84.370 rpm
Gavotte; 440/440.76*80=79.862 rpm
Le cygne; 440/441.43*80=79.741 rpm
Scherzando; 440/444.12*80=79.258 rpm

となりました。
Symposiumの復刻CDと比較した結果を下図に示します。
図中、"Symposium"は、Symposiumの復刻CDの推定回転数、"Speed 440"は、レコード再生音源をA4=440 Hzとなるよう調節した回転数です。

ティボーFonotipia_d0090784_09540219.jpg

Gavotteを除けば、まあ似ていると言えます。





Gavotteだけ、Symposiumの復刻CDと違う結果となりましたので、そこをもうちょっと調べてみました。
まず、Symposiumの復刻CDの300 Hzから600 Hzまでのスペクトルを下図に示します。

ティボーFonotipia_d0090784_08352862.jpg

Gavotte(黄色)のピッチは、他の曲より全体的に低い方にシフトしているのがわかります。
中央のA4音を見ると、Gavotte以外は、ほぼ440 Hzにピークがありますが、Gavotteだけは、432 Hz前後にあります。

次に、上で求めた、A4=440 Hzとなる回転数に調節した音源ファイルに対して、再度スペクトルを求めました。
300 Hzから600 Hzまでのスペクトルを下図に示します。

ティボーFonotipia_d0090784_09570033.jpg

Serenata(灰色)のように、440 Hz付近のピークが二つに割れたものについては、どちらが本当のA4音かという問題は残りますが、6曲とも、すべてのピークはほぼ同じ位置に集まっています。
これは、そうなるように合わせたのですから当然です。
この中で、A4音のピーク周波数を拾って下図に示します。

ティボーFonotipia_d0090784_10103450.jpg

Symposiumは、GavotteをA4=約432 Hzで復刻しましたが、この結果について一つ気になる点は、上のスペクトルを見ると、Gavotteの440 Hzのピークの振幅が低いことです。
これはA4音の出現頻度が低いためでしょうが、念のため、その他のもっとレベルの大きな音でも、定量的に確かめておく必要がありそうです。
そこで、Gavotteで一番振幅の大きい、E4音のピーク周波数を拾って下図に示します。

ティボーFonotipia_d0090784_10001245.jpg

ちなみに、A4=440 Hzの場合、E4の周波数は、
E4=440/1.3348=329.6 Hz
になりますが、Gavotte以外は、その330 Hz前後に揃っています。

それに対してGavotteは約325 Hzですので、A4同様、やはりGavotteはピッチが1.5%ほど低いようです。
なおGavotteだけは、無伴奏で、ピアノの音は入っていません。
これは単なるピッチ推定の誤差なのか、あるいはティボーは少し低めのピッチで弾いたという何らかのエビデンスがあったのか?

あと、ここには踏み込みたくないと言いましたが、内周と外周で回転数が違い、どちらかの回転数で合わせてしまったということも考えられないことはありません。
Gavotteには下図[4]に示すように、最初(上)と最後(下)に同じフレーズが出てきますので、この8小節を別々にスペクトルを求めてみました。

ティボーFonotipia_d0090784_07351934.jpg

ティボーFonotipia_d0090784_07351368.jpg

SymposiumのCDと、80 rpmで再生したレコードの結果を下図に示します。

ティボーFonotipia_d0090784_14414576.jpg

これを見ると、どちらも最初の方が2~3 Hz高くなっているのがわかります。
このような状況で、最初だけ聴いてピッチを合わせると、全体の平均ピッチは低くなります。
これはGavotteのピッチが低い現象と同じ傾向ですが、これだけで説明するには数値的にちょっと足りないようです。

結局よくわかりませんでした。しかたがないので、ここではGavotteも含めて、A4=440 Hzとなるそれぞれの回転数で再生したMP3音源を、下記のページにアップしました。
いずれも写真をクリックすれば音が出るはずです。

THAÏS (Massenet-Gallet): Méditation; https://ibotarow.exblog.jp/3733535/
Mélodrame de Piccolino (Guiraud); https://ibotarow.exblog.jp/13884283/
Serenata (Vieuxtemps);  https://ibotarow.exblog.jp/5717615/
Gavotte (Bach); https://ibotarow.exblog.jp/4513659/
LE CARNAVAL DES ANIMAUX (Saint-Saëns): Le cygne; このページ
Scherzando (Marsick, op.6,2); https://ibotarow.exblog.jp/4513659/


References
[1] クリスティアン・グボー, "フランスのヴァイオリニスト ジャック・ティボー", 村上和男訳、(創栄出版, 1997)
[2] The GREAT VIOLINISTS Volume XXIII - FRANZ ONDŘIČEK - JULES BOUCHERIT - JACQUES THIBAUD - JOSEPH SZIGETI, SYMPOSIUM 1349 (2007)
[3] JACQUES THIBAUD EARLY RECORDINGS ON FONOTIPIA & PATHE(Pre-Electric Recording), Goodies 33CDR-3409
[4] https://violinsheetmusic.org/classical/work/bach-gavotte-en-rondeau/



by ibotarow | 2018-03-25 07:50 | ヴァイオリン_ラッパ吹き込み | Comments(0)


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