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2018年 04月 22日

クーベリックG&T

d0090784_09180920.jpg
Bruno Seidler- Winkler (piano) and Jan Kubelik (violin) during a recording.
In the background: recording engineer Max Hampe. [1]

これまでの試行で、楽譜や復刻CDに依存しない回転数推定法がほぼ確立したと思われますので、途中でほっぽってあるサラサーテやエネスコの見直しをやる必要があるのですが、やはり今まで回転数を調べたことのないレコードに興味を惹かれます。
そこで今回はヤン・クーベリック(1880-1940)のG&Tを採り上げました。
なお、上の写真は[1]から拝借しましたが、クーベリックの恰幅の良さから考えて、G&T時代より後のHMV時代のものではないでしょうか?

クーベリックG&Tのリストを拙ブログから再掲しますと、

Jan Kubelik G&T Recordings

1902.10.26, Recordings made in London
[2700W] private Romance (d’Ambrosio)
[2701 W2] 7956 Serenade No. 1 in A (Drdla) 27946 27955 37938 47952 77912
[2702b] 7957 Lucia di Lammermoor: Sextetto (Donizetti-St Lubin)
[2703 2W] 7957 do 27947 27957 37939 47953 77913
[2704W] private Faust: Fantasia (Gounod)

1903.11.21
[4601b] 7967 Carmen: Habanera (Bizet-Sarasate)  47954 77914
[4602b] 7968 Carmen Suite: Chanson bohème (Bizet-Sarasate) 27956 37941 47955 77915
[4603b] Cadenza to Paganini (Émile Sauret)
[4604b] destr do
[4605b] 7961 Theme & Pizzicato - Nel cor non più mi sento (Paisello-Paganini) 27958 37940

1904.10.20
[6152b] Berceuse (Cui)
[6153b] Träumerei (Schumann)
[6154b] destr Jocelyn: Berceuse (Godard) with Nellie Melba (s), (piano Landon Ronald)
[400c] destr Ave Maria (Bach-Gounod), in Latin
[401c] 03033 do
[407c] no title on file
[408c] 07901 La ronde des lutins (Bazzini)037906 077902

1904.11.15
[6230b] Berceuse (Cui)

このうち市販されたのはカタログ番号を持つ下記の7面です。

7956 Serenade No. 1 in A (Drdla)
7957 Lucia di Lammermoor: Sextetto (Donizetti-St Lubin)
7967 Carmen: Habanera (Bizet-Sarasate)  
7968 Carmen Suite: Chanson bohème (Bizet-Sarasate)
7961 Theme & Pizzicato - Nel cor non più mi sento (Paisello-Paganini)
03033 Ave Maria (Bach-Gounod)
07901 La ronde des lutins (Bazzini)

この7面を78 rpmで再生した時の300から600 HzのスペクトルをFig. 1に示します。

d0090784_14342685.jpg

このデータから、440 Hz付近のピーク周波数を拾うと、

7956 Serenade No. 1 in A (Drdla); 421.24 Hz
7957 Lucia di Lammermoor: Sextetto (Donizetti-St Lubin); 422.59 Hz
7967 Carmen: Habanera (Bizet-Sarasate) ; 421.92 Hz
7968 Carmen Suite: Chanson bohème (Bizet-Sarasate); 421.92 rpm
7961 Theme & Pizzicato - Nel cor non più mi sento (Paisello-Paganini); 415.86 rpm
03033 Ave Maria (Bach-Gounod); 441.43 rpm
07901 La ronde des lutins (Bazzini); 429.99 rpm

となりました。
この周波数をA4だと仮定して、これを440 Hzにする回転数を求めると、

7956 Serenade No. 1 in A (Drdla); 78*440/421.24=81.47 rpm
7957 Lucia di Lammermoor: Sextetto (Donizetti-St Lubin); 78*440/422.59=81.21 rpm
7967 Carmen: Habanera (Bizet-Sarasate) ; 78*440/421.92=81.34 rpm 
7968 Carmen Suite: Chanson bohème (Bizet-Sarasate); 78*440/421.92=81.34 rpm
7961 Theme & Pizzicato - Nel cor non più mi sento (Paisello-Paganini); 78*440/415.86=82.53 rpm
03033 Ave Maria (Bach-Gounod); 78*440/441.43=77.75 rpm
07901 La ronde des lutins (Bazzini); 78*440/429.99=79.82 rpm

となりました。
この回転数で再生した時の300から600 HzのスペクトルをFig. 2に示します。

d0090784_14364960.jpg

440 Hzにピークを合わせただけなので、これが果たして本当のA4音なのかどうか、半音ずれていないかどうか、わからないのが絶対音感の無い身のつらいところです。
冒頭で、楽譜も復刻CDもいらないと大口を叩いた手前、多少後ろめたさはありますが、復刻CD[2]と比較してみましょう。
このCDには1902年録音のクーベリックが4曲入っていますが、復刻時の回転数が下記のように明記されています。

29: Serenade № 1 in A "Kubelík-Serenade" (Franz Drdla)
violin: Jan Kubelík
10" disc Gramophone 2701 b (7956) • key A, 69.4 rpm, 2:25 min

30: Fantaisie sur un thème de Lucia di Lammermoor (Leon de Saint-Lubin op.46)
violin: Jan Kubelík
10" disc Gramophone 2703 b (7957) • key D, 71.0 rpm, 2:42 min

これと比較すると、半音はおろか全音以上の相違があります。
これは始めからやり直しですね。





気を取り直して、先ずドルドラのセレナーデ
7956 Serenade No. 1 in A (Drdla)
について、復刻CD(青)と78 rpm再生のレコード(赤)のスペクトルをFig. 3に示します。

d0090784_14392398.jpg

山二つほどずれているようです。
それぞれの一番大きな山のピーク周波数を拾うと、
CD 69.4; 454.216 Hz
Record 78; 509.3948 Hz
となりました。
レコードの山を二つ下のCDの山に重ねる回転数は、
454.216/509.3948*78=69.55 rpm
となりました。
この回転数で再生したレコードのスペクトルを求めると、Fig. 3の灰色のようになりました。

次の問題は、複数あるピークのうち、どれがA4音か?です。
楽譜も復刻CDもいらないと言った舌の根も乾かぬうちにまたかと言われそうですが、これを判定するためには楽譜が必要ですね。
セレナーデの楽譜[3]で、A4音が頻繁に出てくるところを探すと、Fig. 4に示す、中間の転調部の2フレーズ目にありました。

d0090784_10124158.jpg

この図の2小節目から、5小節目の初めの部分のスペクトルを求めるとFig. 5の赤のようになりました。
青は、Fig. 3の青と同じ全体スペクトルです。

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楽譜にA4の上下のG#とB♭音はほとんど出てきませんので、A4音は450 Hz付近のピークのようです。

TRUESOUND TRANSFERSが基準ピッチをA4=450付近にした根拠はわかりませんので、ここでは便宜的に、これを440 Hzにする回転数を求めると、
440/509.3948*78=67.37 rpm
となります。

1902年録音のもう一枚は、
7957 Lucia di Lammermoor: Sextetto (Donizetti-St Lubin)
です。
復刻CDによると、回転数は71.0 rpmですので、Serenadeと大差ありません。

復刻CD(青)と78 rpm再生レコード(赤)のスペクトルをFig. 6に示します。

d0090784_10400301.jpg

それぞれの山のピーク周波数を拾うと、
CD 71.0; 454.216 Hz
Record 78; 498.6282 Hz
で、レコードの山を二つ下のCDの山に重ねる回転数は、
454.216/498.6282*78=71.05 rpm
となり、CDの回転数とほとんど一致します。
この回転数で再生したレコードのスペクトルを求めると、Fig. 6の灰色のようになりました。

この楽譜は見つかりませんでしたが、おそらくSerenadeと同じように、450 Hz付近のピークがA4だと思われます。
A4=440 Hzにする回転数は、
440/498.6282*78=68.83 rpm
となります。

次は、1903年録音の3枚です。
7967 Carmen: Habanera (Bizet-Sarasate)  
7968 Carmen Suite: Chanson bohème (Bizet-Sarasate)
7961 Theme & Pizzicato - Nel cor non più mi sento (Paisello-Paganini)

78 rpm再生レコードのスペクトルをFig. 7に示します。

d0090784_10464405.jpg

400-500 Hzに3つのピークがありますが、これのどれがA4でしょうか?

1903年録音3枚のうち、一番わかりやすいのはパガニーニの
Nel cor non più mi sento「わが心虚ろになりて」
です。
なぜわかりやすかというと、楽譜[4]の最初から5小節目に、Fig. 8に示すような、A4音が長く続く部分を見つけたからです。

d0090784_09345968.jpg

78 rpm再生のレコードのこの部分のスペクトルを求めると、Fig. 9のオレンジのようになりました。

d0090784_11024673.jpg

ピーク周波数は、
499.9741 Hz
です。
同図の黄色は、78 rpm再生のレコードの全体のスペクトルですが、500 Hz付近に明確なピークは見られません。
A4音の出現頻度が少ないせいでしょうが、全体スペクトルから判断する危険性があることがわかります。

A4を440 Hzにする回転数は、
440/499.9741*78=68.64 rpm
となります。

1903年録音の残りの2曲は、サラサーテの
カルメン幻想曲:ハバネラ
カルメン幻想曲:ジプシーの歌
です。

それぞれの楽譜[5]で、Fig. 10に示すA4音と、Fig. 11に示すA4#音を含む2小節を選びました。

d0090784_08452159.jpg
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78 rpm再生のレコードの、この2小節のスペクトルを求めた結果をFig. 12に示します。
青がハバネラ、オレンジがジプシーの歌です。

d0090784_08452748.jpg

それぞれの一番大きなピークがA4とA4#だとすると、周波数は、
ハバネラ; A4=475.0763 Hz
ジプシーの歌; A4#=504.0115 Hz, A4に換算すると、A4=504.0115/1.05946=475.7235 Hz
です。

A4を440 Hzにする回転数を求めると、
ハバネラ; 440/475.0763*78=72.24 rpm
ジプシーの歌; 440/475.7235*78=72.14 rpm
となります。

1904年録音の12インチ盤2枚
03033 Ave Maria (Bach-Gounod) with Nellie Melba (s)
07901 La ronde des lutins (Bazzini)
のうち、アヴェ・マリアは簡単です。
Fig. 13に示す楽譜[6]によると、メルバの歌の出だしの全音符がA4です。

d0090784_19292071.jpg

78 rpm再生レコードのこの小節のスペクトルを求めると、Fig. 14の黄色のようになりました。

d0090784_12514414.jpg

ピーク周波数は、
498.6282 Hz
です。
これをA4=440 Hzにする回転数は、
440/498.6282*78=68.83 rpm  
となります。

なお、Fig. 14の青は全体スペクトルですが、ピークの位置が黄色より低くなっています。
これはおそらく、外周と内周で回転数が違うためだと思われますが、これ以上踏み込むのはやめておきます。

1904年録音のもう一枚は、バッツィーニのロンド・デ・ルタンです。
これはアヴェ・マリアよりさらに簡単だろうと最初は思いました。なぜなら、このレコードには、内周にA4と思われる標準音トラックがあるからです。でも、そうは問屋が卸さなかった。

78 rpmで再生したレコードのスペクトルを求めるとFig. 15のようになりました。
赤が全体スペクトル、灰色が内周トラックです。

d0090784_12584474.jpg

内周トラックのピーク周波数は、
429.9912 Hz
で、全体スペクトルも同じ位置にピークがあります。
これをA4だと仮定して、440 Hzにする回転数を求めると、
440/429.9912*78=79.82 rpm
となります。
これは今までの回転数より大幅に高い値です。
同じ日の録音でマトリクス番号も近いのに、アヴェ・マリアとこんなに違うのは解せません。

内周トラックは単純にA4音だと思いましたが、もしG4だとすると、A4は、二つ右隣りのピーク、
484.4971 Hz
になります。
ただ、楽譜にはA4音があまり出てこないのに、このピークは大きいのが気になるところですが。
これを440 Hzにする回転数は、
440/484.4971*78=70.84 rpm
となります。
この値は他のクーベリックG&Tと大差ありません。
しかし、標準音としてG音を入れるということはあるのでしょうか?

この問題に決着を付けるため、78 rpm再生レコードの冒頭のピアノの4小節のスペクトルを求めると、Fig. 16の緑に示すように、ピーク周波数は、
488.5345 Hz
となりました。
赤は、Fig. 15の赤と同じ全体スペクトルです。

d0090784_08381942.jpg

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Fig. 17に示す楽譜[7]によると、この音はB4ですので、A4に換算すると、
488.5345/1.122462=435.24 Hz
となります。

これは、2種類の回転数、
79.82 rpm; A4=429.9912 Hz
70.84 rpm; A4=484.4971 Hz
のうち、79.82 rpmに近い値であることがわかります。
多少差があるのは、外周と内周の回転数差によるものでしょう。

ちなみに、435.24 Hzを440 Hzにする回転数は、
440/435.24*78=78.85 rpm
となります。
つまり、外周と内周で1 rpmほどの差があることになります。これは無視ですね。

以上、7枚の推定回転数をまとめるとFig. 18のようになりました。

d0090784_13340436.jpg

これはあくまでA4を440 Hzに合わせた時の値ですので、当時の基準ピッチであるかどうかは保証の限りではありません。
多分違うでしょうね、アラン・ケリーが存命なら聞いてみたかった。でも何らかの値に決めないとレコードが再生できません。
Fig. 18に示す回転数で再生したMP3音源を下記にアップしました。

7956 Serenade No. 1 in A (Drdla)
7957 Lucia di Lammermoor: Sextetto (Donizetti-St Lubin)
7967 Carmen: Habanera (Bizet-Sarasate)
7968 Carmen Suite: Chanson bohème (Bizet-Sarasate)
7961 Theme & Pizzicato - Nel cor non più mi sento (Paisello-Paganini)
03033 Ave Maria (Bach-Gounod)
07901 La ronde des lutins (Bazzini)

最後に、回転数の推定にあたって大変お世話になった、Loreeさんのお嬢さんに厚く感謝の意を表します。ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。

References
[1] http://www.recordingpioneers.com/RP_HAMPE2.html#Notes
[2] The 1902 "London Reds", TRUESOUND TRANSFERS TT-4002 (2016)
https://www.truesoundtransfers.de/Titellisten/TT4002.htm
[3] http://imslp.org/wiki/Serenade_No.1_(Drdla%2C_Franti%C5%A1ek_Alois)
[4] http://imslp.org/wiki/Nel_cor_pi%C3%B9_non_mi_sento%2C_MS_44_(Paganini%2C_Niccol%C3%B2)
[5] https://violinsheetmusic.org/classical/s/sarasate/
[6] https://imslp.org/wiki/Ave_Maria_(Gounod%2C_Charles)
[7] https://violinsheetmusic.org/classical/b/bazzini/


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by ibotarow | 2018-04-22 08:34 | ヴァイオリン_ラッパ吹き込み | Trackback | Comments(0)
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