ヤン・クーベリック最後のFonotipiaセッションは1911年3月で、その後は同年7月からHMVに録音します。
それで、次はHMVを調べようと思ったのですが、その年の2月と5月に、クーベリックと同じく”他の人々がやっとその才能を発揮し始める時期に、すでに頂点を越えてしまった不幸な天才”、フランツ・フォン・ヴェチェイ(1983-1935)がFonotipiaに録音しています。
こちらの方が興味がありますので、先にヴェチェイFonotipiaを。
拙ブログからリストを再掲しますと、
Franz von Vecsey FONOTIPIA Recordings
17-Feb-1911
[XPh4523] 62506 Larghetto (Händel - arr. Hubay) 98086
[XPh4524] ----- Capriccio all'antica (Sinigaglia)
[XPh4525] ----- Aria (Bach - arr. Wilhelmj)
[XPh4525-2] ----- do
[XXPh4526] 74091 Il Trillo del Diavolo (Tartini) 76432
[XPh4527] ----- Ave Maria, Op. 52, no. 6 (Schubert - arr. Wilhelmj)
[XPh4528] 62503 Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski) 98085
[XPh4529] ----- Träumerei, Op. 15, no. 7 (Schumann)
[XXPh4530] ----- Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski)
[XXPh4530-2] 74092 do 76433
[XXPh4530-3] ----- do
[XPh4532] ----- La Ronde des lutins, Op. 25 (Bazzini)
[XPh4533] 62502 Capriccio in B minor, Op. 1, no. 2 (Paganini) 67770
[XXPh4534] 74090 Humoreske, Op. 101, no. 7 (Dvorak - arr. Wilhelmj) 76431
[XPh4535] 62500 Albumblatt (von Vecsey) 98078
[XPh4536] ----- Le Luthier de Cremone (Hubay)
[XPh4537] ----- Adagio (Bach)
[XPh4538] 62508 FAUST: Fantasia sul Valzer (Gounod - arr. Wieniawski) 98083
[XPh4539] ----- Capriccio in E flat, Op. 1, no. 14 (Paganini)
3-May-1911
[XPh4627] ----- Guitarre, Op. 45, no. 2 (Moszkowski - arr. Wilhelmj)
[XPh4628] 62498 Le Luthier de Cremone (Hubay) 98077
[XPh4629] 62501 Capriccio all'antica (Sinigaglia) 67769
[XPh4630] 62499 Capriccio in E flat, Op. 1, no. 14 (Paganini) 67767
[XPh4631] ----- Guitarre, Op. 45, no. 2 (Moszkowski - arr. Sarasate)
[XPh4631-2] 62509 do 98084
[XPh4632] 62504 Ave Maria, Op. 52, no. 6 (Schubert - arr. Wilhelmj) 67772
[XPh4633] 62505 Träumerei, Op. 15, no. 7 (Schumann) 72401, 98087
[XPh4634] 62507 Aria (Bach - arr. Wilhelmj) 98080
[XPh4635] ----- FAUST: Fantasia sul Valzer (Gounod - arr. Wieniawski)
[XXPh4636] 74089 La Ronde des lutins, Op. 25 (Bazzini) 76430
発売された16面のうち、下記の12面の回転数を推定します。
17-Feb-1911
[XPh4523] 62506 Larghetto (Händel - arr. Hubay)
[XXPh4526] 74091 Il Trillo del Diavolo (Tartini)
[XPh4528] 62503 Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski)
[XXPh4530-2] 74092 Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski)
[XPh4533] 62502 Capriccio in B minor, Op. 1, no. 2 (Paganini)
[XXPh4534] 74090 Humoreske, Op. 101, no. 7 (Dvorak - arr. Wilhelmj)
[XPh4538] 62508 FAUST: Fantasia sul Valzer (Gounod - arr. Wieniawski)
3-May-1911
[XPh4628] 62498 Le Luthier de Cremone (Hubay)
[XPh4631-2] 62509 Guitarre, Op. 45, no. 2 (Moszkowski - arr. Sarasate)
[XPh4633] 72401 Träumerei, Op. 15, no. 7 (Schumann)
[XPh4634] 62507 Aria (Bach - arr. Wilhelmj)
[XXPh4636] 74089 La Ronde des lutins, Op. 25 (Bazzini)
これらを78 rpmで再生した時の300 Hzから600 Hzまでのスペクトルを、録音時期で二つに分けて、Fig. 1aとFig.1bに示します。
個別のデータはMoreを見ていただくとして、A4=440 Hzで推定した回転数をFig. 26にまとめます。
トロイメライの低回転数が目立ちます。
いくら、ええ加減なFonotipaといえども、これは異様です。たぶん間違っているでしょう。
楽譜が違うのかもしれませんが、ヘ長調の楽譜で合わせると、このあたりにならざるを得ません。
これについては取りあえず暫定値とし、別途検討することにします。
これらの回転数で再生したMP3音源を下記にアップしました。
[XPh4523] 62506 Larghetto (Händel - arr. Hubay)
[XXPh4526] 74091 Il Trillo del Diavolo (Tartini)
[XPh4528] 62503 Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski)
[XXPh4530-2] 74092 Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski)
[XPh4533] 62502 Capriccio in B minor, Op. 1, no. 2 (Paganini)
[XXPh4534] 74090 Humoreske, Op. 101, no. 7 (Dvorak - arr. Wilhelmj)
[XPh4538] 62508 FAUST: Fantasia sul Valzer (Gounod - arr. Wieniawski)
[XPh4628] 62498 Le Luthier de Cremone (Hubay)
[XPh4631-2] 62509 Guitarre, Op. 45, no. 2 (Moszkowski - arr. Sarasate)
[XPh4633] 72401 Träumerei, Op. 15, no. 7 (Schumann)
[XPh4634] 62507 Aria (Bach - arr. Wilhelmj)
[XXPh4636] 74089 La Ronde des lutins, Op. 25 (Bazzini)
なお、今回の調査にあたって、Loreeさんのお嬢さんに大変お世話になりました。
ここに厚く感謝の意を表します。ありがとうございました。
それでは個別の推定根拠を示します。
最初は、ヘンデル/フバイのラルゲット
[XPh4523] 62506 Larghetto (Händel - arr. Hubay)
です。
原曲はフルートソナタ
Flute Sonata No. 9 op. 1 in B minor (HWV 367b)
のようです。
フバイ編曲のヴァイオリン用楽譜は売り物しか見つかりませんでしたので掲載は見合わせますが、同じロ短調でした。
代わりに、フルート用の楽譜[1]をFig. 2に示します。
冒頭は、F5#です。
この音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 3のようになりました。
ピークは700 Hz付近です。
A4に換算すると、
700/1.6818=416 Hz
となります。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
417.205811 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/417.205811*78=82.2 rpm
となりました。
次は、タルティーニの悪魔のトリル
[XXPh4526] 74091 Il Trillo del Diavolo (Tartini)
です。
楽譜[2]を見ると、Fig. 4に示すように、冒頭の音はD5です。
この音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 5(青)のようになりました。
ピークは550 Hz付近です。
A4に換算すると、
550/1.3348=412 Hz
となります。
念のため、G3開放弦の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 5(赤)のようになりました。
ピークは370 Hz付近です。
A4に換算すると、
370*1.122462=415 Hz
となります。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
413.841248 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/413.841248*78=82.9 rpm
となりました。
次は、ヴィエニャフスキーのモスクワの思い出の後半
[XPh4528] 62503 Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski)
です。
楽譜[3]を見ると、Fig. 6に示すように、2小節目にA4があります。
この音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 7のようになりました。
ピークは410 Hz付近です。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
409.130859 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/409.130859*78=83.9 rpm
となりました。
次は、ヴィエニャフスキーのモスクワの思い出の前半
[XXPh4530-2] 74092 Souvenir de Moscou, Op. 6 (Wieniawski)
です。
楽譜[3]を見ると、Fig. 8に示すように、2小節目にG3があります。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 9のようになりました。
倍音のピークは360 Hz付近です。
A4に換算すると、
360*1.122462=404 Hz
となります。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
406.439209 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/406.439209*78=84.4 rpm
となりました。
次は、パガニーニのカプリッチョ
[XPh4533] 62502 Capriccio in B minor, Op. 1, no. 2 (Paganini)
です。
楽譜[4]を見ると、Fig. 10に示すように、4小節目にF#があります。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 11のようになりました。
ピークは360および720 Hz付近です。
A4に換算すると、
360*1.1892=428 Hz
となります。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
423.262024 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/423.262024*78=81.1 rpm
となりました。
次は、ドヴォルザーク/ウィルヘルミのユーモレスク
[XXPh4534] 74090 Humoreske, Op. 101, no. 7 (Dvorak - arr. Wilhelmj)
です。
楽譜[5]を見ると、Fig. 12に示すように、4小節目にA4の2分音符があります。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 13のようになりました。
ピークは425 Hz付近です。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
421.916199
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/421.916199*78=81.3
となりました。
次は、グノー/ヴィエニャフスキーのファウスト・ファンタジー
[XPh4538] 62508 FAUST: Fantasia sul Valzer (Gounod - arr. Wieniawski)
です。
楽譜[6]を見ると、Fig. 14に示すように、4小節目にE4の8分音符があります。A4もありますが、これはちゃんと押さえないので、基本波成分が出るかどうかわかりません。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 15のようになりました。
ピークは310 Hzと420 Hz付近です。
E4をA4に換算すると、
310*1.3348=414 Hz
となります。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
418.551636 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/418.551636*78=82.0 rpm
となりました。
次は、フバイのクレモナのヴァイオリン作り
[XPh4628] 62498 Le Luthier de Cremone (Hubay)
です。
楽譜[7]を見ると、Fig. 16に示すように、2小節目にG3の2分音符があります。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 17のようになりました。
倍音のピークは400 Hz付近です。
A4に換算すると、
400*1.122462=449 Hz
となります。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
446.141052 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/446.141052*78=76.9 rpm
となりました。
次は、モシュコフスキー/サラサーテのギターレ
[XPh4631-2] 62509 Guitarre, Op. 45, no. 2 (Moszkowski - arr. Sarasate)
です。
楽譜[8]を見ると、Fig. 18に示すように、4小節目にA4の4分音符があります。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 19のようになりました。
ピークは450 Hz付近です。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
446.813965 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/446.813965*78=76.8 rpm
となりました。
次は、シューマンのトロイメライ
[XPh4633] 62505 Träumerei, Op. 15, no. 7 (Schumann)
です。
楽譜[9]を見ると、Fig. 20に示すように、5小節目に、ヴァイオリンとピアノ両方にG4の2分音符があります。
この音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 21(赤)のようになりました。
G4は、
480 Hz付近
のようです。
A4に換算すると、
480*1.122462=538 Hz
となります。
そこで、Fig. 21(青)に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
537.657166 Hz
となりました。
これはかなり高い値ですが、図中に示したように、このピークをA4だと仮定すると、へ長調の音階が無理なく表示されます。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/537.657166*78=63.8 rpm
となりました。
これは今までの回転数に比べて大幅に低い値です。
もしかすると、Fig. 20の楽譜とは違う調の楽譜で弾いているのかもしれませんが、今後の検討事項にします。
次は、バッハ/ウィルヘルミのG線上のアリア
[XPh4634] 62507 Aria (Bach - arr. Wilhelmj)
です。
楽譜[10]を見ると、Fig. 22に示すように、6小節目にG3があります。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 23(青)のようになりました。
倍音のピークは410 Hz付近です。
A4に換算すると、
410*1.122462=460 Hz
となります。
念のため、2小節目のA4を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 23(赤)のようになりました。
ピークはやはり460 Hz付近です。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
453.543091 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/453.543091*78=75.7 rpm
となりました。
最後は、バッツィーニのロンド・デ・ルタン
[XXPh4636] 74089 La Ronde des lutins, Op. 25 (Bazzini)
です。
楽譜[11]を見ると、Fig. 24に示すように、出だしのピアノがB音です。
78 rmp再生時のこの音の部分を切り取ってスペクトルを求めるとFig. 25のようになりました。
ピークは480 Hz付近です。
A4に換算すると、
480/1.122462=428 Hz
となります。
そこで、Fig. 1に示す78 rmp再生時の全体スペクトルからこの付近のピーク周波数を拾うと、
434.701538 Hz
となりました。
この周波数から、A4=440 Hzになる回転数を求めると、
440/434.701538*78=79.0 rpm
となりました。
References
[1] http://imslp.org/wiki/Flute_Sonata_in_B_minor%2C_HWV_367b_(Handel%2C_George_Frideric)
[2] https://violinsheetmusic.org/classical/t/tartini/
[3] https://violinsheetmusic.org/classical/w/wieniawski/
[4] https://violinsheetmusic.org/classical/p/paganini/
[5] http://imslp.org/wiki/8_Humoresques,_Op.101_(Dvo%C5%99%C3%A1k,_Anton%C3%ADn)
[6] https://violinsheetmusic.org/classical/w/wieniawski/
[7] https://imslp.org/wiki/A_cremonai_heged%C5%B1s%2C_Op.40_(Hubay%2C_Jen%C3%B6)
[8] https://imslp.org/wiki/2_Piano_Pieces%2C_Op.45_(Moszkowski%2C_Moritz)
[9] https://violinsheetmusic.org/classical/s/schumann/
[10] https://violinsheetmusic.org/files/download/classical/bach-wilhelmj-air-for-the-g-string-violin.pdf
[11] https://violinsheetmusic.org/classical/b/bazzini/