人気ブログランキング | 話題のタグを見る

いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

ibotarow.exblog.jp
ブログトップ
2020年 03月 29日

デ・ヴィートのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 フラット盤とグルーブガード盤 その2

フラットエッジBLP 1008 Nと、グルーブガードエッジBLP 1008 RTのスペクトル上の特徴の一つは、15 kHz付近のピークの有無でした。
カッティングの版が同じなので、これはピックアップの高域共振ではないかという仮説が考えられます。
そうだとすると、ピークの大小は、振動系のダンピングの程度で決まります。
では、何でダンプされるのか?ビニールの弾性も有力な候補の一つでしょう。

試みに重量を測ってみると、
BLP 1008 N:142 g
BLP 1008 RT:106 g
と大幅に違いましたが、一般的に言って、音溝部の厚みは、グルーブガード盤の方がフラットエッジ盤より薄いと考えられるので、厚みの違いが主な原因でしょう。同じビニールでも、厚みが違うとピークの出方も変わるかもしれません。

と、ここまではさしたる矛盾もなくヘリクツを展開できたのですが、ここでふと魔がさして、BLP 1008 Nの第1楽章と第2楽章、つまりA面とB面を比較してみたのです。

デ・ヴィートのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 フラット盤とグルーブガード盤 その2_d0090784_09313675.jpg

ありゃ、困ったことになりました。ピークの周波数が微妙にずれています。B面の方が高く出ています。
表と裏でピーク周波数が違うということは、ピックアップやビニールの問題ではなさそうです。
という訳で、ピークのビニール・ダンプ説は脆くも崩れ去りました。

それでは、このレコードを買った人はA面ばかり聴いて、すり減ったとか?
そこで、BLP 1008 RTのA面とB面を比較してみました。

デ・ヴィートのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 フラット盤とグルーブガード盤 その2_d0090784_09334371.jpg

これも同様の傾向で、B面の方が高い方まで伸びています。
このレコードを買った人もA面しか聴かなかった、とは考えにくいです。

また、スタンパーもプレスの過程で片面だけ摩耗する、ということもないでしょう。それも、製作時期の違う2枚とも。

A面とB面で何が違うかといえば、第1楽章と第2楽章ですので、登場する楽音の構成が違います。

今まで、10 kHz付近までのギザギザは、楽音の高調波成分で、それ以上の領域はギザギザが少なくなるので、これはレコードと針の接触で生ずるノイズだと思っていました。
ところが、この2枚の図を見ると、A面とB面のレベル差は、数kHz付近で近づくところはありますが、低い方から高い方まで10 dB前後の差があります。

B面の第2楽章はアンダンテなので、アレグロの第1楽章よりレベルが低いのはわかりますが、10 kHz以上がノイズだとすると、曲が何であろうと、この領域は一致するはずです。
でも実際は、なおレベル差を保っています。

ということは、10 kHz以上も楽音成分だということになるのでしょうか?






同じ10インチの他の例はどうかと、デ・ヴィートのブラームス:ダブルコンチェルト BLP 1028を調べてみました。

18, 19 Feb. 1952, Kingsway Hall, London
BRAHMS: Double Concerto for Violin, Violoncello and Orchestra in A minor, Op. 102
[0XEA 254-6N, 1, A] Allegro
[0XEA 255-5N, 1, R] Andante - Vivace non troppo
Giacondo De Vito and Amadeo Baldovino (cello)
Rudolf Schwarz / Philharmonia Orchestra

フラットエッジ盤で、Tax CodeはNでした。BLP 1008 Nと同時期です。重量は143 gで、BLP 1008 Nの142 gとほとんど同じでしたので、厚みも変わらないでしょう。
そこで、このフラットエッジ2枚のA面同士を比較してみると、

デ・ヴィートのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 フラット盤とグルーブガード盤 その2_d0090784_14484456.jpg

ありゃりゃ、予想を裏切って、BLP 1008Nのような明瞭なピークがありません。
同じTax Code、同じ径、同じ重量、同じ厚み、同じフラットエッジにもかかわらず差が出るということは、この差は、曲の違い、つまり楽音の違いを表している、と考えるのは牽強付会でしょうか?

しかし、楽音だとしても、その高調波成分が何故かいつも15 kHz付近に集中してピークを形成する、と言うのは些か無理があります。
他のピックアップではどうなんだろう?と、DENON DL-102を試してみました。
聴いた感じは、DL-102の方が新しい盤のように聴こえます。
でも1950年代の雰囲気を味わうにはEMI-17Aかな?まあ、この辺は非常に感覚的なものですが。

BLP 1008 NのA面を、EMI-17AとDL-102で比較した結果、

デ・ヴィートのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 フラット盤とグルーブガード盤 その2_d0090784_09050995.jpg

さすが日本製、20 kHz以上まで素直に伸びています。ピークは見られません。
ということは、やはりピークはEMI-17A由来のものだと言えそうです。

しかし、N盤とRT盤でピークの出方が違う理由、10 kHz以上の領域でレベルが10 dBほど違う理由は、ピックアップのせいではなく、何かほかの原因があるはずです。

それはビニールの材質が違うからだ、という都合の良い解釈は非常に魅力的ですが、これはシロートには検証困難です。
レコード盤の上下を超音波振動子ではさんで、音速を測定すると、何かわかるかもしれませんが、もちろん、そんな装置は持っていません。
もしそれができたとしても、A面とB面でピーク周波数が違う謎は依然として残ったままです。

そこで、さらなる傍証を求めて、Tax CodeがN、フラットエッジ、重量 226 gのALP盤を見つけましたので、A面とB面を比較してみます。
フラグスタート/フルトヴェングラーの「神々の黄昏から」ALP 1016 Nです。

Wagner: Götterdämmerung;
2-8 March 1954, Musikverein, Vienna
Dawn and Siegfried's Rhine Journey - Siegfried's Funeral Music
Wilhelm Furtwängler / Vienna Philharmonic Orchestra
[2XVH 50-5N, 1, R]

23 June 1952, Kingsway Hall, London
Brünnhilde's Immolation and Closing Scene
Kirsten Flagstad and Wilhelm Furtwängler / Philharmonia Orchestra
[2XEA 248-7N, 1, R]

デ・ヴィートのメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 フラット盤とグルーブガード盤 その2_d0090784_07484202.jpg

これはA面とB面で、録音時期もカッティングも違いますが、2つのピークは気持ち良く一致しています。
またレベルも揃っていますが、BLP 1008 Nの場合は、そもそもレベルが違いました。この辺が関係するのでしょうか?今後の課題とします。

昔からEMIのフラットエッジ盤は、その古雅な音が珍重されてきました。その秘密は、15 kHz付近のピークにある、と言いたいところですが、ピークが目立たない盤もあって、結局よくわかりませんでした。




by ibotarow | 2020-03-29 08:17 | ヴァイオリン_電気録音 | Comments(0)


<< ボベスコ/ジェンティのフォーレ...      デ・ヴィートのメンデルスゾーン... >>