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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2020年 04月 26日

ボベスコ/ジェンティのフォーレ:ヴァイオリンソナタ デッカ盤とロンドン盤

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ローラ・ボベスコ(1921-2003)は、1948年にジャック・ジェンティ(1921-2014)と結婚し、1950年、英デッカに二人で2枚の10インチ盤を入れています。
フランクとフォーレのヴァイオリンソナタです。

EMIと同じように、デッカにも英国プレスの米国向けロンドン盤があり、昔から音質の違いが噂されて来ました。
そこで、フォーレのソナタについて、デッカ盤とロンドン盤を比較してみます。

11 Dec. 1950, West Hampstead Studios, London
Fauré: Sonata in A major for violin and piano Op.13  
Allegro molto - Andante / Allegro vivo - Allegro quasi presto
Lola Bobesco, violin
Jacques Genty, piano

DECCA LX 3057 フラットエッジ, 137 g
[CA DRL 618-1B, 2, BK(14)] / [CA DRL 619-1B, 3, H(8)] CT

LONDON LPS 327 フラットエッジ, 135 g
[DRL 618-1B, 1, K(4)] / [CA DRL 619-1B, 3, G(7)] CT

カッティングはどちらも初版で同一です。
その後に続くアルファベットはカッティング・エンジニアの記号で、[1]によると、
B = Ron Mason
だそうです。

Tax Codeは、どちらも"CT"です。これは[2]のリストには見当りませんが、[3]によると、紛らわしいことに、デッカは一部記号が異なるようです。
9 Apr. 1948 = DT(48) (CT on Decca)
30 Dec. 1950 = DTP (CT+IP on Decca) (also AT stamps)
ですので、
CT:1948年4月から1950年12月
の間となりますが、これでは録音してすぐプレスされたことになってしまいます。
それにしては、デッカA面のスタンパ―が14版なので、実際はもう少し時代が下るのかなと思います。
盤面には"CT"の刻印しかありませんが、次の"CT+IP"の期間まで入れると、1953年4月まで延びますので、こちらの方が現実的ですね。

ピックアップはDecca XMS、イコライザはRIAAです。
聴いた感じはだいぶ違います。
デッカ LX 3057は、繊細で すっきりと高域まで伸びています。
ロンドン LPS 327は、デッカより線が太く、高域は艶があります。

聴感上これだけ違うと、スペクトルもさぞかし差があるのでは、と期待が高まります。

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それぞれのA面の冒頭4分間を比較してみました。

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ありゃ、予想に反して、ほとんど同じです。
上の感想はいったい何だったのでしょうか?まさか、デッカ盤のジャケットがペラペラで、ロンドン盤のジャケットが厚紙でしっかりしている、という見た目に影響されたわけでは決してないと思いますが。

しかし、この結果を見てから改めて聴き比べてみると、今度はあまり違いが感じられませんでした。
周波数スペクトルは、レコードに入っている情報のほんの一面しか表していない、と頭ではわかっているつもりでしたが、物理データで差が無いと示されると、自分の感性でなんか違うと思っても、それを肯んじない意識が働いたようです。

そこで、日ごろお世話になっているさる達人に、スペクトルを見ていただいた上で音源をお送りして、鑑定をお願いしたところ、「同じカートリッジ使用とは思えないほど異なる。」とのお答えでした。

それに意を強くして、何とかスペクトル上でも違いを見出せないかと、前回のデ・ヴィートであれだけ差が出たからあるいは?と淡い期待を抱いて、EMI-17Aを試してみました。
まず、デッカ盤でDecca XMSとEMI-17Aを比較したところ、

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10 kHz以上の差は、それぞれの高域特性がそのまま出ているのでしょうね。
聴いた感じもだいぶ違い、Deccaの方は明晰でアグレッシブですが、EMIの方は柔らかくて大人しく感じます。
もちろん、この感想は上の図を見てからのものですが。

さてEMI-17Aで、それぞれの冒頭4分間を比較してみたところ、

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15 kHz付近にわずかに違いが見られます。せいぜい2 dB程度ですので、これが聴感に効くかどうかさだかではありませんが、少なくともボクの駄耳では、Decca XMSの時と同様、デッカ盤の方が細身で繊細な感じがしました。

という訳で、スペクトルにはほとんど表れないけれど、デッカ盤とロンドン盤には明らかに音質の違いがあるようです。
ある作家は、このレコードを初めて聴いた時を回想して、「夜の海浜で、貴婦人に抱擁される私自身をはっきり幻覚させてくれた。」と記しました[4]。
どちらが貴婦人に抱擁されると感じるかって?されたことないのでわかりません。

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References
[1] Makings on DECCA "dead vinyl" area, https://www.stonesondecca.com/basic-lp-info/matrix-numbers/
[2] Purchase Tax Stamps, http://www.78rpm.net.nz/mechcopy/mech7.htm
[3] Taxing Issues, https://www.discogs.com/forum/thread/211751
[4] 五味康祐, ”西方の音 9 シュワンのカタログ”, 芸術新潮 (1964.10)




by ibotarow | 2020-04-26 08:37 | ヴァイオリン_電気録音 | Comments(2)
Commented by オペラ大好き at 2020-05-22 13:07
こんにちは。拝見して楽しんでいます。回転数がレコードによって違うことはなんとなく気がついていました。楽器を使って正しい音程を確認して回転数を調節しています。今の時代とは思えぬアナログな方法です。
Commented by ibotarow at 2020-05-23 16:12
オペラ大好きさま、ご訪問ありがとうございます。
楽器を使って音程を確認されるのは正統的な方法だと思います。
ただ、その楽器のピッチが録音された当時のピッチと同じかどうか、なんて考え始めるとドロ沼に嵌りますが。

Chris Zwargの"Speeds & Keys"には、様々なピッチが紹介されています。
https://ibotarow.exblog.jp/27148641/


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