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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2020年 11月 29日

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて_d0090784_09300579.jpg

前報で、イヴ・ナットの4種類の30 cm盤を調べたところ、DF2桁盤のDF 57のみピッチが違い、残りのDF3桁盤3枚はほぼ似たピッチでした。
そこで、その近辺のカタログ番号のレコードを探したところ、DF 55シューマン: クライスレリアーナがありました。
ただ、これは25 cm盤ですので、30 cm盤とカッティングの条件が異なるかもしれません。
そこでイヴ・ナットの25 cm盤3種のピッチを調べてみます。

before November 1951, Paris, Salle Adyar
DF 55 L'oeuvre de piano de Schumann
Kreisleriana, opus 16
A1: Agitato Assai
A2: Intimissimo E Non Troppo Allegro
A3: Molto Agitato
[DF-55-1-H] hand written

B1: Lento
B2: Vivace
B3: Lento Assai
B4: Vivace
B5: Vivo E Giocoso
[DF 55 2K, PART 14251, M3-134963]

6 March 1953, Paris, Salle Adyar
DF 84 L'oeuvre de piano de Chopin
Sonate en si bémol mineur (funèbre), opus 35
A1: Grave. Doppio movimento
A2: Scherzo
A3: Marche funèbre
A4: Finale: Presto
[DF 84 1C1, PART 19517, M3 148672]

B1: Fantaisie en fa mineur, opus 49
B2: Barcarolle en fa dièze majeur, opus 60
[DF 84 2C1, PART 19518, M3 148673]

October or November 1955, Paris, Salle Adyar
325.095 Brahms
Vingt-cinq Variations et Fugue sur un thème de Haendel, opus 24
A: Thème et Variations (1 à 15)
[25095-1V1, V-1520] hand written

B: Variations (fin) et Fugue
[25095-2V1, V-1521] hand written

先ず、それぞれのA面の冒頭4分間のスペクトルを比べると、

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて_d0090784_07421459.jpg

となりました。
DF 84と325.095はほぼ揃っていますが、DF 55だけちょっとずれています。
DF 55のピッチが残りの2面より少し高いのか、あるいは半音近く低いのかは、楽譜と照合しないとわかりませんが、面倒なのでやめておきます。






このDF 55は、A面のマトリクスは手書きですが、B面は刻印です。
[DF-55-1-H] hand written
[DF 55 2K, PART 14251, M3-134963]
B面にはPART番号とM3番号がありますので、パテ・マルコーニの工場で作られたことがわかりますが、A面は違うところで作られた可能性があります。

そこで、DF 55のA面とB面の冒頭4分間を比較してみると、

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて_d0090784_08142121.jpg

となり、半音の半分ほどずれている結果となりました。
クライスレリアーナの前半と後半でピアノのピッチを変えることは考えられないし、一連の録音でテープレコーダーの回転数が変わることも考えにくいので、これはやはり、カッティングの品質管理の問題でしょうか。

ひょっとして、前報の30 cm盤DF 57もA面とB面で違いがあるかもしれない、と気になって比較してみると、

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて_d0090784_09324563.jpg

となり、よく揃っている結果となりました。
DF 55であれだけ差があったのは、作られたところが違うせいかもしれません。

念のため、残りの25 cm盤2枚についても、A面とB面を比較してみます。
まずDF 84は、

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて_d0090784_08303139.jpg

となりました。
A面の方が少し高く出ていますが、DF 55よりはるかによく揃っています。

ここで、興味深いデータに気が付きました。
DF 57のマトリクスと並べてみると、
[DF 57 1C21, PARTX 19515, M6 148670]
[DF 57 2C21, PARTX 19516, M6 148671]
[DF 84 1C1, PART 19517, M3 148672]
[DF 84 2C1, PART 19518, M3 148673]
となります。
30 cmと25 cm盤なので、PARTXとPART、またM6とM3の違いはありますが、番号自体は連続しています。
これが何を意味しているかはよくわかりませんが、連続してカッティングされた可能性も考えられます。

もしそうだとすると、ピッチが似ていてしかるべきですが、上の2つの図を見比べてみると、半音の半分ほどずれています。
むしろ、DF 57のピッチは、DF 55のB面と似ていますが、マトリクスは、
[DF 55 2K, PART 14251, M3-134963]
[DF 57 1C21, PARTX 19515, M6 148670]
なので、通し番号だとすると、製作時期はかなり隔たりがあります。かくしてDF2桁盤の闇は深まるばかりです。

次は325.095です。
この盤のマトリクスも手書きなので、パテ・マルコーニ以外で作られたようですが、これは30 cm盤の
DF 177 Brahms
A: 25 Variations et Fuge sur un thème de Haendel, opus 24
Rhapsodies, opus 79
B1: Rhapsodie En Si Mineur
B2: Rhapsodie En Sol Mineur
Intermezzi, opus 117
B3: Intermezzo En Mi Bémol Majeur
B4: Intermezzo En Si Bémol Mineur
B5: Intermezzo En Do Dièse Mineur
のA面を、25 cm盤に切り直したもののようです。
結果は、

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて_d0090784_08322502.jpg

となりました。
他の2枚より製作時期が新しいのか、3枚の中では一番よく揃っています。

とここまで書いて、17 cm盤が1枚あったのを思い出しました。
急遽、317.022 シューマン:パピヨンを追加します。

22 September 1954, Paris, Salle Adyar
317.022 Schumann
Papillons pour piano, opus 2
A: Nos 1 à 8
[EX 17022-1V2, V-1479] hand written
B: Nos 9 à 12
[EX 17022-2V2, V-1480] hand written

この盤のマトリクスも手書きで、Vで始まるので、325.095と同じところで作られたようですが、これは30 cm盤の
DF 128 L'oeuvre de piano de Schumann
A1: Scènes d'enfant
A2: Toccata
A3: Arabesque
B1: Papillons
B2: 3 Romances
のB面1曲目を17 cm盤に切り直したもののようです。
A面とB面を比較してみると、

イヴ・ナットの25 cm盤3種その他のピッチについて_d0090784_15141113.jpg

となりました。
325.095より、さらに気持ち良く揃っています。A面B面はこうでなくっちゃ。
余談ですが、「昔はABだったが、今はCDになった。」と言ったのは野口五郎です。

という訳で、総合的、俯瞰的に考えると、DF旧盤でもカタログ番号の若い盤は、ピッチの多様性に注意する必要がありそうです。

最後に、経験豊か?なイヴ・ナットらしい感想を書き留めて、この項を閉じます。
これは、Henri-Claude Fantapié というニース生まれの指揮者が書いた、シャルランとの思い出[1]の一部です。

「60年代の初めに、私はSFP (Société Française de Productions Phonographiques)という小さな若い会社で、クラシック音楽の仕事をしていました。
レコーディングのいくつかは、シャルランがとても気に入っていた、パリの15区にある小さな劇場サール・アディールで行いました。
そこには彼がオランダで選んだ1台のスタインウェイがありました。それはアメリカから船で運ばれて来たものです。
彼はイヴ・ナットやマルセル・メイエルと一緒にいました。私は彼が何を話したのか覚えていませんが、そのピアノはナットとベートーヴェンのソナタのコンプリート録音のための選択だったと思います。
『触らないうちから、もう鳴り始める、まるで娼婦のようなピアノだ!』と口走ったのはナットだったのでしょうか?」

訳出にあたっては、marcoさん、たかたさん、エピクロスさんに多大のご助言をいただきました。ここに厚く感謝の意を表します。

Reference
[1] Conductor Henri-Claude Fantapié remembers recording with André Charlin.


by ibotarow | 2020-11-29 08:31 | ピアノ_電気録音 | Comments(0)


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