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いぼたろうの あれも聴きたい これも聴きたい

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2021年 02月 28日

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone_d0090784_08120408.jpg


頽齢となり、骨董レコードからは足を洗ったつもりだったのですが、先日、かすかな記憶にある歌手のレコードがたいそう廉価で出ていたので、ボタンを押してしまいました。
フレンチ・バリトン Lucien Fugère (1848-1935)の1902年オレンジZonophone、
X-2012 Les Saisons: Chanson du blé (V. Massé)
です。レーベルにはオーケストラと書いてありますが、実際はピアノ伴奏です。

Wikipediaその他[1,2]によると、リュシアン・フュジェールは1848年7月22日、9人兄弟の8番目の子供としてパリで生まれました。
6歳の時に父親が亡くなったので、糊口を凌ぐため12歳で石工見習いになり、兄弟とともにノートルダム寺院の彫像等の修復現場で働きました。
歌手を志してパリ音楽院に入ろうとしましたが音楽の知識不足のため叶わず、個人レッスンを受けてコンサートカフェ[3]でシャンソンを歌っていました。
1877年、オペラ・コミック座にデビュー、100以上の役を歌い、80歳を超えるまで現役を続けました。

フュジェールのZonophoneは、バウアー [4]には、
Black Zonophone, Paris, 1902 (later issued with orange label)
 2011 La Basoche: Elle m'aime CR (Messager)
の1枚しか載っていませんが、David Schmutz [5]によると、下記の9面あるようです。


Lucien Fugère Zonophone Recordings

Recording expert: John Daniel Smoot
Nov. 1902, Paris
1. [X-2011] X-2011 La Basoche: Elle m'aime (Messager) CR (orch.)
2. [X-2012] X-2012 Les Saisons: Chanson du blé (Massé) (orch.)
3. [X-2013] X-2013 Ronde d'amour (Chaminade/Fluster)
4. [X-2014] X-2014 Plaisir d'amour (Martini/de Florian)
5. [X-2015] X-2015 La Joconde: Dans un délire extrême (Isouard) (two verses given)

Dec. 1902, Paris
6. [X-2016] X-2016 Le vieux ruban (Paul Henrion/de Litteau)
7. [X-2011-2] X-2011 La Basoch: Elle m'aime (Messager) CR
8. [X-2012-2] X-2012 Les Saisons: Chanson du blé (Massé)
9. [X-2015-2] X-2015 La Joconde: Dans un délire extréme (Isouard) (one verse given)

今回入手したレコードは、手書きマトリクスの末尾に小さな2が入っていたので、8番めのテイク2のようです。

この頃のZonophoneの回転数はどのくらいだったのか調べようとしましたが、手持ちの資料やネット上には見当たりません。
しかたがないので、復刻CDを参考にしようと探してみると、Symposium 1281 [6]に一曲だけ、
X-2015 La Joconde: Dans un délire extrême (Isouard)
が入っていました。
その平均スペクトルを見てみると、

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone_d0090784_09452658.jpg

図の赤線のようになりました。
これは困りました。ほとんど連続したスペクトルで音階らしきものが見えません。フュジェールの盛大に揺れるヴィブラートのせいですかね?
今回のレコード、X-2012 を、とりあえず78 rpmで再生してみると、図の青線のように、やはり同じような連続スペクトルで、これではピッチがCDと合っているのかずれているのか見当が付きません。
そこで、各々のピアノ前奏の部分を切り出して分析してみると、

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone_d0090784_09452089.jpg

となりました。
さすがはピアノ、音階が明瞭にわかります。ただ残念ながら、2曲ともA4付近にピークは見られません。

ピーク位置を見比べると、78 rpm再生のレコードは、CDと半音の半分ほどずれています。
高い方へずれているのか、低い方へずれているのかは、楽譜を見ないとわかりませんが、当時のコンペティターG&Tの回転数から見て、78 rpmより速くはないだろうと考えて、低い方へずらしてみます。
76 rpm再生に相当するスペクトルを求めると、

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone_d0090784_09451440.jpg

図の青線となりました。
ピーク位置はわりと揃ってきましたので、何となく良さそうです。




これで一件落着かと思ったのですが、2つの音源を聴き比べてみると、どうも声質が違うような気がします。
76 rpm再生のX-2012は、単独で聴くと深々としたバリトンヴォイスで良い感じなのですが、復刻CDのX-2015は、曲が違うせいかもしれませんが、かなり腰高で別人のように聴こえます。

そうなると、76 rpmの妥当性を調べるために、楽譜にAの音があるかどうかを確かめてみたくなります。
しかし、ヴィクトル・マッセなどという聞いたこともないオペラ作曲家の楽譜なんて、どうせネット上にはあるまいと手をこまねいているだけでしたが、上のような事情で探してみると、あっさりLes Saisonsの全曲スコア[7]が見つかりました。
その中から、Chanson du blé の冒頭部分を見てみると、

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone_d0090784_07454729.jpg

と、ヴォーカルパートにA3の音符がたくさん並んでします。
76 rpm再生時のスペクトルには、第2高調波のA4相当のピークは見当たらなかったので、78 rpmより高い方へずらすべきだったのかもしれません。

そこで、80 rpmで再生してみると、ピアノ前奏部は、

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone_d0090784_08423884.jpg

となりました。
430 Hz付近にA4相当のピークが見えますが、楽譜の伴奏パートにもA4とA3の音符が出てきます。
この頃の録音システムは、300 Hz以下の成分は急激に低下するので、A3の成分が見えるかどうかわかりませんが、200 Hzまでの全体スペクトルを表示してみると。

リュシアン・フュジェールのオレンジZonophone_d0090784_08375048.jpg

となりました。
レベルは低いですが、213 Hz付近に明瞭なピークが見えます。

という訳で、どうも、76 rpmよりも80 rpmの方が良さそうに思われますが、この値が正しいかどうかは保証の限りではありません。
もし、ほかのデータをお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご教示ください。

80 rpmで再生したX-2012の音源をアップしようと思ったのですが、Yahooボックスは既にサービスが終了していることに気が付きました。
そこで、試験的にDropboxにファイルをアップしてみました。


また、比較に用いた復刻CD、SYMPOSIUM 1281のX-2015がYoutubeにあったので、参考までに貼り付けておきます。




References
[1] Lucien Fugère: Life and career
https://en.wikipedia.org/wiki/Lucien_Fug%C3%A8re
[2] LUCIEN FUGERE, SYMPOSIUM 1125 (1992)
[3] 2015年のパリ同時多発テロ事件で多くの死傷者が出たバタクラン劇場
[4] R. Bauer, "Histrical Recordings 1898-1908/9", (Sidwick & Jackson, London, 1947)
[5] LUCIEN FUGÈRE DISCOGRAPHY by David Schmutz - 78 Universe
https://www.yumpu.com/en/document/view/4486643/lucien-fugere-discography-by-david-schmutz-78-universe
[6] A Survey of European Zonophone Recordings 1901-1903, SYMPOSIUM 1281 (2004)
[7] Les saisons (Massé, Victor) Complete Score, pp. 20-22
https://imslp.org/wiki/Les_saisons_(Mass%C3%A9%2C_Victor)


by ibotarow | 2021-02-28 08:21 | 男声_ラッパ吹き込み | Comments(0)


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