2009年 02月 11日
![]() 約100年前に、パリ・オペラ座の地下に埋められたレコードの壺[1]の中に、クライスラーのレコードが1枚あることを、クルト・リースの「レコードの文化史」[2]で読み、次にクライスラーの伝記[3]で、それがボッケリーニのアレグレット(HMV 07959)であることを知って以来、長年そのレコードを捜し求めていたが、このほど、ようやく巡り合うことができた。 と言いたいところであるが、そんなことは30年の間にすっかり忘却の彼方に行ってしまっていて、昨年ミクシーでH.さんの日記を拝見して、本を引っ張り出して読み直したという次第である。 コンディションは、ボクの持っている紫盤の中では最上級で、この頃のHMV盤のみが持つ、きめ細やかなスクラッチノイズが心地良い。 1911年11月吹き込みの、クライスラー紫盤の1枚で、一連の17,8世紀の楽匠のスタイルを真似た曲の中でも、典雅さにおいて、一、二を争う曲であろう。 しかも、若きクライスラー特有のvividnessが横溢した演奏で、紫盤の中で、もっとも魅力的な一枚といっても過言ではない。1912年の壺に入れる候補に選ばれたのも頷ける。 紫盤の日本語リストは以前も挙げたが、Eric Wenのディスコグラフィー[4]から1911年のHMV録音を以下に抜粋する。 1911年10月の吹き込みは、すべて2テイクずつあるが、これらは何の理由からか発売されなかった。 1911年11月の吹き込みの中で、 クープランのスタイルによる才たけた貴婦人 ディッタースドルフのスタイルによるスケルツォ ボッケリーニのスタイルによるアレグレット カルティエのスタイルによる狩り クープランのスタイルによるプロヴァンスの朝の歌 の5曲は2テイクずつある。 何かで読んだ話によると、別テイクは米Victor用だということであるが、手元にある12インチ盤3曲は、すべてテイク2である。これが通常の状態なのか、まだ判断できる知見を持たない。 もうすぐ発売されるという、「オペラ座の壺」の復刻CD[5]に収録されたクライスラーが、果たしてどちらのテイクであるのか、興味が持たれるところである。 もっとも、1907年に埋められた第1回目の二つの壺は、無傷で取り出されたが、1912年の第2回目の二つの壺は、1989年の工事の際に壊されたそうである[6]。 したがって、上記の復刻には、出土品ではなくて伝世品が用いられたと思われるが、詳しくは上記復刻CDが出るまで、しばし待たれい。 10 Oct. 1911 (London), Haddon Squire (piano) 14248e Aubade provençale "in the style of Couperin" (Kreisler) 14249e do 14250e La chasse "in the style of Cartier" (Kreisler) 14251e do 5558f Minuet "in the style og Pugnani" (Kreisler) 5559f do 5560f La précieuse "in the style of Couperin" (Kreisler) 5561f do 5562f Andantino "in the style of Martini" (Kreisler) 5563f do ac5564f 07956 Scherzo "in the style of Dittersdorf" (Kreisler) 5565f do 6 Nov. 1911 (London), Haddon Squire (piano) 14413e 3-7943 Aubade provençale "in the style of Couperin" (Kreisler) DA521, Victor 64202, 710 14414e do 14415e 3-7942 La chasse "in the style of Cartier" (Kreisler) DA521 14416e do 6 Nov. 1911 (London), George Falkenstein (piano) 5691f La précieuse "in the style of Couperin" (Kreisler) ac5692f 07957 do ac5693f 07958X Scherzo "in the style of Dittersdorf" (Kreisler) DB320 ac5694f 07958 do Victor 64568, 74294, 6187 5695f Allegretto "in the style of Boccherini" (Kreisler) ac5696f 07959 do DB488 ac5697f 07960 Caprice Viennois, Op. 2 (Kreisler) ac5698f 07961 Tambourin Chinois, Op. 3 (Kreisler) ac5699f 07962 Liebesleid (Kreiler) ac5700f 07963 Liebesfreud (Kreisler) DB479 ac5701f 07964 Chanson meditation (Cottenet) DB321 ac5702f 07965 Chanson sans paroles, Op. 2, No. 3 (Tchaikovsky-Kreisler) DB315 ac5703f 07966 Hungarian Dance No. 5 in G minor (Brahms) ac5704f 07967 Chanson Louis XIII and Pavane "in the style of Couperin" (Kreisler)* DB479 ac5705f 07968 Gavotte from Partitaq No. 3 in E (Bach-Kreisler) DB669 ![]() (追記) ケリーのMAT103によると、1911年10月10日の録音のうち、ac5564fは07956として発売されたようだ。 それから11月6日録音の12インチ盤のピアノは、George Falkensteinになっている。同じ日の10インチと12インチでピアニストが違うとは考えにくいが、そのまま記す。 また5691fと5695fは発売されなかったようだ。 以上、リストを修正した(3月24日) References [1] http://blog.france5.fr/cabinet-de-curiosites/index.php/2007/12/22/63791-voix-souterraines [2] クルト・リース, レコードの文化史, 佐藤牧夫訳 (音楽之友社, 1968) p.185 [3] ルイス・P・ロックナー, フリッツ・クライスラー. 中村稔訳 (白水社, 1975)p.146 [4] Eric Wen, "Fritz Kreisler Discography" in the book of "Fritz Kreisler: Love's Sorrow, Love's Joy" by Amy Biancolli, (Amadeus Press, Portland 1998) [5] http://www.hmv.co.jp/product/detail/3530836 [6] http://louise200.exblog.jp/8659932/
by ibotarow
| 2009-02-11 10:42
| ヴァイオリン_ラッパ吹き込み
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Comments(3)
![]()
このレコードは、パリ・オペラ座の地下に埋められた「レコードの壺」の1枚だったのですね。ぼくはこの曲をクライスラー自身のヴァイオリンで聴くのは初めてでした。ふだんは電気以降の録音(しかも復刻CD)ばかり聴いていますが、このレコードは音が良くて、クライスラーを堪能しました。ところで、「ルイ13世の歌」の最初の8小節がクープランの旋律だという話は、出典は何でしょう?
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わかりました。文献[3]の320ページに記述がありました。
「古典作曲家たちの写本と題した一連の小品は、伝統的な旋律からとられたクープランの『ルイ十三世の歌』の最初の八小節を除けば、みな私のオリジナルの作品です。」 ![]()
ありがとうございます!「伝統的な旋律」の出典を探してみたくなりました。
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